Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「ち、違うんです。友達のお兄さんで、幼馴染でっ。ずっと海外で働いていたんですけど、日本に帰国したって聞いたので久しぶりに会いたいなって。私の命の恩人なんです」
命の恩人、と言った瞬間、彼の顔へサッと見たことのない表情が過った、気がした。敢えて言うなら……苦しみ、痛み、だろうか。
どうしたんだろう、と覗き込む私を避けるように、彼は目を逸らす。
「あの彼か。15年前、火災を起こした自宅から茉莉花を助け出してくれたという」
両親のことを話題にした時一緒に話したことを、覚えていてくれたらしい。
「はい、そうです。火事の後も、入院した私を気遣って毎日お見舞いに来てくれて……彼がいなかったら、あの日々を乗り切ることはできなかったと思います」
正直なところ、あの頃の記憶は事件のショックのせいか随分曖昧だったりするんだけど。
それでも彼の少し高めのテノールとジャスミンの匂いだけは、はっきりと覚えている。
――茉莉ちゃん。
――君が笑ってくれたら、僕も嬉しいよ。
あの言葉に支えられて、今の私があるようなものだ。
「帰って来たのか……」
思い出に耽っていたせいで、一瞬反応が遅れた。
ん? 空耳かな?
帰って来たのか?
「クロードさん?」
「っ……いや、なんでもない。わかった。俺に反対する権利はない。会ってくるといい。ただし――」
「ただし?」
「帰りは俺が迎えに行く、もしくは誰かを迎えに行かせる。必ず連絡してくれ」
いつになく固い口調に、違和感が沸く。
私と学くんのこと、もしかして誤解してないよね?