Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「あのっ学くん、ええとその人は、本当にただの幼馴染ですからね?」
できるだけ気楽な口ぶりで言うと、少し彼の雰囲気が和らいだ。
「もちろんわかってる。しかし何が起こるかわからないだろ。夜道は危険だ」
夜道……あぁ、私と彼との関係を疑ってるんじゃなくて、犯罪に巻き込まれないかって心配してくれてるのね。さすがアメリカ人、平和ボケした日本人にはない危機意識。
なんだ、そうだよね。
嫉妬なんて、するわけないよね。意識しすぎ。
密かに苦く笑ってから、ちょっとだけヒヤリとした。
夜道、危険、と言えば実は……
1週間前からたびたび、外出の時に誰かの視線を感じたり、後ろで足音を聞いたりするような気がしていたから。
“助手席の女”が気になってそれどころじゃなく、気のせいだろうって片づけてたけど、気味悪いなって感じたことは確かにある。
「――茉莉花?」
「あ、はいっ。ええと、心配しすぎですよ。こんな色気皆無の女、誰も襲いませんって」
まぁ気のせいよね。
忙しい彼を、無駄に煩わせることはない。
「しかし、前職ではセクハラにも遭ったんだろう?」
「それはそうですけど。課長は私をどうこうしたかったっていうより、生意気だって気に入らなかっただけだと思います。単なるイジメの類というか。だって私みたいな、出るべきところも出てない、こんな女……」
笑い交じりの自虐的な台詞が、尻すぼみに消えていく。
こっちを見つめる呆れたような怒ったような眼差しに気づいたからだ。
ど、どうしたんだろう。
私なんか変なこと言った?
尋ねようとした時に耳に入ったのは、微かな舌打ち。
「……ったく、誰が……してるとっ……」
それから吐き捨てるようなつぶやき。
次の瞬間にはもう、腕を掴まれ、引き寄せられ――
「きゃあっ!?」
視界がぐるりと回り、私の身体はソファへ押し倒されていた。