Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
重たい男らしい身体に四肢を押さえこまれ、あっという間に自由を奪われて、呆然とした。
初めてだったから、彼がこんな風に衝動的な行動を起こすのは。
「ど、どうしたん、ですか?」
上ずった声で、恐る恐る聞く。
ジョーク、だよね? きっと。
「…………」
けれど、下から見上げる彼の顔に笑みはなく、何かに耐えるようにきつく唇を結んでいるのがわかった。
照明を背負い、逆光になっているせいだろうか。
影の差した彼の双眸は、暗闇で光る獣のそれのようで……自分に向けられた“男”の眼差しに、心臓が瞬く間に乱れ打ち始めるのがわかった。
どくん、どくん、どくん、どくん……っ
「く、クロード、さ」
「茉莉花」
音にならないほどの囁き。
なのにどこかそれは官能的に響いて、ゾクリと身体の奥がはしたなく疼いた。
「……は、い」
応えたものの返事はなく。
「…………」
私たちは静まり返ったリビングで、見つめ合う。
普通の夫婦なら、ままある展開なのかも?
けど! 私たちは初めて。
どうしたらいいんだろう、って痺れたような頭のどこかで考える。
もちろん誰も正解を教えてくれるわけもなくて。
次第に私の呼吸が、浅くなっていく。
これってもしかして、期待しちゃっていいの?
この先に続く展開を……
心臓をバクバクさせた私に気づいているのかいないのか。
焦らすようにゆっくりと、彼が、頬を傾け……2人の距離が近づく。
伏せた長い睫毛の一本一本まで見える距離まで、アップになる美貌。
やはりこれは、この態勢は、き、キスっ……?
ついに、ついにっ!?
いきなり紳士からオオカミへとキャラ変してしまったかのような旦那様に、嬉しい、というより驚きで、頭は真っ白。
アワアワするばかりで、この場に相応しいだろう台詞も態度も何も思いつかない。
なんて役立たずの私!
結局どうしたらいいのかわからず――とっさにギュッと目をつぶっていた。