Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
数日後の夜。
私はブルームーンのカウンター席に座って、柊馬を相手にぐだぐだと飲んでいた。
「いいのかよ、こんな時間まで。義兄さん心配するんじゃないの?」
「今日は接待で遅くなるんだってー。ま、連絡さえすれば、何したっていーんだけどね。全然心配なんかされないよー」
ハイボールの入ったグラスを少し荒っぽく揺らして、苛立ちを紛らわす。
今日に限って、なぜか周囲はカップル客ばかり。
クリスマスっぽい店内のデコレーションも相まって、八つ当たりだとわかりつつも、モヤモヤは収まってくれない。
グイッとグラスを空けて、柊馬へ「もう1杯」と突き出した。
「もう止めとけって。姉ちゃん酔うと眠くなる性質だろ。オレまだ仕事あるし、送っていけねえよ? もう一緒に住んでるわけじゃないんだし」
「うぅう、ケチ! じゃあ、そこのあなた、作ってくれない?」
私がカウンター越しに顔を向けると、柊馬の隣でグラスを並べていた浅黒い肌の青年が、ビクッと肩を跳ねさせた。
「すみ、マセン。ちょっと、わからない」
片言で謝罪され、急いで「こっちこそごめんなさい、驚かせちゃって」と私も頭を下げた。
「新人さん?」
柊馬に尋ねると、頷きが返ってくる。
「今月から新しく入った、トミー。香港から来た留学生なんだよ」
「トミー、と呼んでください。よろしく、願いマス」
「あ、柊馬の姉の、茉莉花です。よろしく」
聞き取りやすいようにゆっくり自己紹介すると、ニコッと微笑まれた。
まだまだあか抜けない朴訥とした感じだけど、背は高いし、笑顔がワンコみたいでカワイイ。ふむふむ、磨けば光る感じだろうか。