Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「茉莉花、着いたぞ」
穏やかな声が言い、身体がふわりと柔らかいもの――ベッドへ降ろされた。
そして。
コホッとどこか後ろめたそうな咳払い。
「洋服が皺になるから……脱いだ方がいいと思うが」
眠くて眠くてたまらなくて、何を言われているのか、霞みがかった頭では情報処理が追い付かない。
むにゃむにゃと意味不明な音を漏らす私に、仕方ないと思ったんだろう、彼の手が伸びてくる。
ぷちぷち、アンサンブルニットのボタンが外されて……
あぁそうか。
脱げってことか。
唐突に意図を理解する私。
うんうん、と私は自分からニットを脱ぎ、スカートのファスナーを躊躇いなく降ろした。
「っ、ちょ、待っ、起きたんだな。じゃあもう大丈夫か。おやす――」
「行かないで」
何をしてるのか自覚もないまま、私は彼の腕に抱きついていた。
「茉莉花っ」
クロードさんの動揺はなんとなく伝わってきたけど、ふわふわした頭では“なぜ”まで理解することはできなかった。
「……一緒に、寝てください」
「っ、何を言ってるのか、わかってるのか?」
「一人に、しないで」
「……え?」
「一人で寝ると、怖いことが起きるから。お願い、行かないで?」
舌足らずな口調で言い、彼にしがみつく。
溺れた水中でブイに掴まるみたいに。
重怠い頭に、もう思考能力は1%だって残っていないのに。
ただこの腕を放しちゃいけないと、そのことだけは考えていた。
「茉莉花……っ」
低いつぶやきが耳に届く。
次の瞬間。
私の身体は、彼の腕の中深く、包み込まれていた。