Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
「クロードさんっおはようございますすみませんすみません! 寝坊しまし、て――……え、いない」
飛び起きた私はパジャマのまま飛び込むが、ダイニングに人の姿はない。
クロードさんは、もう出かけてしまったらしい。
ちーん。
肩を落とした私は、そこで何やらいい匂いがすることに気づいて視線を持ち上げる。その先に見つけたのは、テーブルに用意された朝食だった。
一人用のミニ土鍋の中身はタマゴ雑炊、それからお味噌汁。
添えられたメモには、綺麗な字で“シジミは手に入らなかった。すまない”とだけ――……
これって、私の二日酔い用の朝ごはんだよね。
「クロードさん、料理もできるとか完璧が過ぎるでしょ」
独り言ちた声はブレブレ。
ヤバい、泣きそう。嬉しくて。
私の旦那様、優しすぎる……
唇を噛み、溢れそうな想いをぎゅっと堪えて、自分の部屋へ取って返す。
お礼メッセージを早めに送っておきたくて。
「昨夜はご迷惑をおかけしてすみません。朝ご飯ありがとうございました、お仕事頑張ってください……って普通すぎるかな」
スマホを手に少し考えて、それからハタと思いつく。
私の寝坊のせいで、彼は今日お弁当を持っていないってこと。
もちろん外へ食べに行けばいいわけだけど……
添い寝してもらったせいか、今朝はなぜか強気の私。
自分の作ったものを食べてもらいたいって気持ちのままに、【お弁当、会社まで届けても構いませんか】って文章をくっつけて、送ってしまった。
あれ、ちょっと早まったかな、久しぶりに鰻丼にしようとか考えてたら……
後から少し不安になった私の脳裏で、「いいか茉莉花」と、懐かしい声が響いた。
――迷ったらダメなんだ。最後まで自分を信じなきゃな。