Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
――うん、お父さん。わかった。
――疑問を持つのもダメだ。相手に伝わってしまうぞ。
――うん、わかったよ。
――自分は世のため人のため、最高に素晴らしいことを言っている。必ず相手は喜んで歓迎してくれる。そう信じるんだ。
――わかった。
――さぁ茉莉花、声を大きくして言ってみよう。「布団が吹っ飛んだ」!
――布団がふっと……
――おとーさん!! 子どもに何おかしなこと教えてんの!!
――いや、お母さん、これは人生の教く……
――ダジャレのどこが教訓じゃ! 阿保ーーっ!
どうでもいいことまで思い出してくすくす笑ってしまいつつ、作ってもらった朝ごはんを温め直しているうちに、既読がつき、返事が返って来た。
【迷惑じゃないなら、頼みたい】
続けてすぐにピコン! て、もう一つのメッセージ。
【楽しみにしてる】
楽しみにしてる楽しみにしてる楽しみにしてる……
ついで、みたいに添えられたシンプルな一言。
スタンプも何もない返事に、へなへなって腰が砕けてしまう私。
はぁ、ツンデレな旦那様……好き。
座り込んだまま戸棚に寄り掛かって動悸を抑え、深呼吸する。
ぶっきらぼうで口下手で、わかりにくいけど、きっとこれが彼なりの愛情表現。
だとすれば、関係を縮められるかどうかは、これからの私にかかってるってことだ。
きっと、あのキスシーンは私の見間違い。
助手席の彼女は、ただの友達。そういうことにしよう。
信じて、いいですよね?
彼からの返事を何度も見返して、むふふ、と笑み。
私は勢いよく立ち上がったのだった。