Once in a Blue Moon ~ 冷酷暴君の不可解なる寵愛 ~
6. 旦那様はマイヒーロー
バキッ!
「ギャアッ!」
微かに残った聴覚が、何かが砕けるような音、そして悲鳴を拾う。
ほぼ同時にいきなり拘束が解かれ、私はアスファルトへ放り出されて。
その衝撃で白濁していた意識がパッと鮮明になった。
「ケホケホッ! ゲホッ!」
流れ込んできた新鮮な酸素。
せき込みながらなんとかそれを取り込もうと苦戦していたら――その間に全部終わっていた、らしい。
「茉莉花!」
名前を呼ばれ顔を上げると、強い力で攫うように抱きしめられた。
伝わる体温、ムスクの香り……これは……
く、クロード、さん?
嘘、ほんとに彼? 本物?
彼が助けてくれたの?
どうしてここに……ランチミーティングに行ったんじゃ……?
「クロードさん……」
訳がわからないまま、おずおずと上質なスーツに包まれた背中に触れる。
すると、応えるようにさらにきつく抱きしめられ、頬が固い胸に押し付けられた。
「っ無事で、よかった……」
ドッドッドッド……
頬に感じる彼の強い鼓動から、激しく乱れたその呼吸から、彼の緊張と焦り、怒りや安堵、たくさんの感情が一気に伝わってきて。
「っ」
それがスイッチを押したのか、カタカタと身体が震え出した。
「クロード、さんっ……怖かっ、怖く、て……ふ、ぇ、ぇえ……っ」
「あぁ、あぁわかってる。よく頑張ったな」
子どもみたいに泣きじゃくる私の背中を、言葉少なにゆっくりとさすってくれる温かな手。あの男の手とは真逆の優しさが胸に染み、新しい涙がどんどんあふれてきて止まらない。
課長はどうなったの?
どうしてあんなことをしたの?
疑問は泡のように次々浮かぶものの、そんなことより安堵感の方が凄まじく。
パトカーの音が近づいてくるまで私はそれ以上考えることを放棄して、逞しい胸にしがみついていた。