人生のどん底から、絶頂へ。

少し涼しくなってきた帰り道。私は土手で一人涙を流した。
両親に見捨てられる、帰りたくない。このまま一人でいたい。このまま、一人で。

土手をまっすぐ進んだところに、ベンチが見えた。
私はそのベンチに吸い寄せられるように歩いていき、座って、夕焼けを眺めた。

私、なんで勉強できなくなったんだろ。
いい点数とって、いい高校に行かないと。
いい成績とらないと、両親は私を見捨てる。
両親に見捨てられた私の居場所はどこ？
勉強ができない私の取り柄は？
そんなことを考えていると、急に涙が止まらなくなって、呼吸が苦しくなる。
誰か、助けて。
誰か、私の居場所を教えて。
もし両親に見捨てられたら、私はどうすればいいの。

そんな時、隣から聞こえてきた優しい声。
どこかで聞いたことのある、男の人の声だった。

「君、どーしたの？
一旦落ち着こ。大丈夫、大丈夫だから」

私の背中に添えられた温かい手。
「深呼吸、深呼吸。大丈夫だよ」

この感覚、なんだろう。懐かしい感じがする。

私は、気づいたら泣き止んでいた。
顔をあげると、隣には同じ学校の先輩。
学校一頭がいいと噂の生徒会長。
だから、声聞いたことあったんだ。

先輩は、私が泣き止むまで、背中をさすってくれた。
泣き止んで顔を先輩の方に向けると、
「あ、泣き止んだ？もう大丈夫だよ」
と、笑顔で頭をポンポンしてくれた。

『大丈夫だよ』
先輩のこの言葉に少し、救われた気がした。

「すみません。迷惑かけてしまって。」
私が頭を下げると、先輩は笑って、
「で、どーしたの？そんなに泣いて」
と、私に微笑んでくれた。

生徒会長に、テスト89位だったなんて、言えるわけない。
私が下を向いて黙っていると、先輩が口を開いた。

「俺、鷲頭白翔。同じ学校だよね？
ほら、よく図書室で勉強してる子でしょ？」

白翔先輩っていうんだ、。
私は、白翔先輩の優しさに心を奪われた。

「はい。私、鈴木結菜です。先輩、生徒会長の方ですよね、？」

「うん！知っててくれたんだ！嬉しいな〜」

私が笑うと、白翔先輩も笑ってくれた。
笑顔で頭をポンポンされて、私は安心感に包まれ、一粒の涙を流した。

「あ、ごめん。やだった？」

「え、あ、すみません。嫌とかじゃなくて、」

私が焦っていると、白翔先輩は私の頭をなでてくれた。

「話してみれば意外と楽になるかもよ？
あ、でも暗くなってきたしご家族が心配してるかな。家まで送るよ」

白翔先輩は私の荷物も持ってベンチを立った。
そして、
「ほら、こっちおいで？」
と言い、手を差し出してくれた。
優しい声。
白翔先輩の優しさに、少し甘えてしまった。
「俺のことは、白翔とか、気軽に呼んでいいからね」
「じゃあ、白翔先輩って呼んでもいいですか」
「うん！じゃあ君のこと、結菜って呼ぶね」

心臓のバクバクが止まらない。
生徒会長からの"結菜"。名前で呼ばれるなんて、思ってもいなかった。

「白翔先輩、ありがとうございました」

家の前で、深くお辞儀をする。

「そんな、気にしないで。俺でよければ、いつでも相談とか乗るからね」

この懐かしい感覚。
【安心感】って、多分このこと。
私は、安心感に包まれてドアを開けた。

でも、その安心感は一瞬で消えて、不安に変わった。

「ただいま、、」

恐る恐るリビングを覗くと、両親が私を睨んだ。

「門限すぎてるじゃないの！」

「ごめんなさい。」

こんな状況でテストの順位を言えるわけない。
お願いだからテストの話はしないで。
そう願ったけど、無駄だった。

「で、テストどうだったの？」

「あの、本当にすみませんでした。」

私は両親に深く頭を下げて、全ての答案用紙を差し出した。
頭を下げてる間、どうしようもなく怖かった。
一人。私は一人なんだ。
この家に私の味方はいない。
その孤独感が、怖かった。

次の瞬間、頭の上から降ってきた怒鳴り声。

「ちょっと何なのこの点数！？　」

「お前、ふざけるなよ！！　」

二人から責められる感覚。


はぁ。
今、人生のどん底にいるのかもしれない。