雪恋
椅子に掛けてあるグレーのチェスターコート。

身体のラインを拾っている黒いニットに、水色のスカート。

良からぬ輩に目を付けられかねないから、その服は何とかならなかったのか。

彼女の儚げな雰囲気によく似合うから見ている分には眼福だが。

「雪、かぁ」

「初雪は、嬉しいような寂しいような、なんとも言えない気持ちになりますね」

「昔の恋を思い出すわ。

高校生の頃に、当日体育教師だった男性が好きで。

その先生が異動する。

そう聞いたのが、ちょうど初雪の日だったんですよ。

『今とは言わない。

私が無事に教師になれたら、付き合ってほしい』

そう伝えたら、婚約者がいると言う答えが返ってきたんです。

今では、いい思い出です。

その人みたいに、よく生徒のことを気にかけている教師になれているかな、と時々自省できるから」

……昔、先生自身も。

今の俺と同じ、だったのか。

顔なんて知る由もない、三上先生の心を射抜いたその男に、果たし状を叩きつけてやりたかった。

昔だったら、1発くらいその男を殴っていただろう。
流石に今はしないが。
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