年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
「おばさん、これおかわりもらっていー?」
そう声を発する前に、もう空になった食器を持って立ち上がっていた優太。
えぇ……それ、もう四杯目でしょ……。
どれだけ胃袋大きいの。
ドン引きした素振りをして見せるけど、優太はそんなもの気にしていないような態度で、ご機嫌で先に戻ってくる。
「食べ盛りねぇ〜」
そんは優太を、私のお母さんはニコニコして見つめていた。
家が隣同士だからか、小さい頃から、優太はことあるごとにウチに遊びに来て、時にはお泊まりするなんてこともあった。
今でもこうやって、一緒に夕飯を食べることもある。
でもやっぱり、年齢を重ねていくにつれて、薄い壁が出来始めていることにはなんとなく気づき始めていた。
小さい頃に比べたら、お泊まりなんてしなくなったし、ずっと学校で一緒にいる、ということもなくなった。
まあ、いつまでも小さい頃の感覚じゃ、ダメってことなのかな。
「優太も、中学生までは私よりも小さかったのになぁ」
隣に座る優太は、高校生になって一気に身長が伸びたわけで……。
女子の中でも平均の身長だった私は、あっけなく抜かされてしまったのだ。
「私なんて、チビだし」
詩織とか優太は、身長が高くて羨ましいなぁ。
「なに、身長高くなりたいわけ?」
ケッ、と鼻で笑ってくる優太に一発お見舞いすると、私は唇を尖らせて頷いた。
「だって身長高かったら、強そうだし!」
そう言って拳でパンチする真似をしてみるけれど、短い腕は、空中でからぶった。
隣にいる優太みたいに、身長が大きかったら見える景色って違かったのかなぁ。
「お、……よ」
「え?なんて?」
大きな優太からは想像もできないか細い声が出てくることが、多々あるのだけれど。
「お前が小さくても、俺がつえーから大丈夫だっつってんだよ!」
急に荒ぶる優太が面白くて、ガラ空きの脇腹を突いてやった。
「何、急に」
「あら、優太くんったら。優太くんになら、海花のこと任せられるかもね〜」
「は、……はぁっ!?な、何言ってんだおばさん!」
ニコニコするお母さんと、顔を真っ赤にして怒り出す優太には副音声でもついていて、テレパシーで私に聞こえない会話でもしているのだろうか。
なんの話?と首を傾げるけど、二人とも教えてくれないし。
「海花、優太くんと結婚しちゃえば?」
そんなとんちんかんなことを言い出すお母さんを、
「無理」
そうぴしゃりと制すると、なぜか優太は落ち込んでいた。
さっきから気分の浮き沈みが激しいなぁ。まあ、優太のそういうところが面白いんだけど。
「優太くん、今日はもう夜遅いし泊まっていく?」
食べ終わった食器を下げ始めながら、お母さんはそんなことを言った。
「ちょっと、お母さん。私は全然いいけど、もう高校生だよ。優太もこんな女子とお泊まりとか絶対やだから」
ほんとにもう。私たちはもう高校生なんだから。
「今回は遠慮しときます」
そう丁寧に断る優太は、ごちそうさまでした、と手を合わせて食器を下げた。
……もう、高校生だもんね。
私は、長袖をたくし上げて、キッチンのながしの前に立った。