年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
そんなこんなで、慌ただしい文化祭が幕を閉じようとしていた。
学校に残っているのは、もう少数の学生と先生のみ。あれだけ騒がしかった学校も、今ではすっかり静まり返っている。
「い、いいよ!流くんと家、反対方向でしょ!」
「いいって言ってんでしょ」
そして、月が顔を出し始めた時。
あれから、教室の片付けや、着替えなど、やらなければいけないことが残っていたため、流くんと別れたのだが……。
クラスの片付けも終わったので、学生の歩く波に乗って玄関を抜けると、正門の前で誰かを待っている流くんと鉢合わせをしたのだ。
スマホをいじりながら壁に背を預ける流くんに、クラスの女の子たちが少し浮き足立っていた。
「えっ、あの人って、あのウワサの一年生……?」
「知ってる知ってる!黒川くん、だよね!?」
ヘッドフォンをつけていた流くんに、女子たちの言葉は聞こえていないようで。
なんだか、ウワサの人が私の知り合いってだけで、どこか心がくすぐったいと同時に、流くんはやっぱり女子から人気なんだなぁ……そう思った。
やっぱり、彼女とか、待ってたりするのかな。
放課後、勉強に来てくれているのはやっぱりたまたまで___。
あの時は聞けなかったけど、今度聞いてみよう。
「彼女いるの?」って。
「私、ちょっと話しかけてこようかな?」
「えっ、私も行く!」
私のすぐ前を歩いていた女子数人が、スマホのカメラ機能を使って、身だしなみを整え出す。
流くん、もしかしたら嫌がらないかな。
___嫌がってほしい。
「え……」
いつのまにか、そんなことを思い始めている自分に驚く。
今、私……。
流くんが他の女の子を拒んで欲しいって。___そう、思った……よね……?
まっすぐに流くんのもとへ向かっていく女子をみて、ドクンと一際大きく心臓が鳴った。
なんで?
私には、そんなのどうだっていいじゃない。どうだっていいじゃない。
流くんがどんな女の子に優しくしても。あの笑顔を見せても。
だって私は。
私は___流くんの彼女でも、なんでもないんだから。
うん、きっとそう。心の内側がモヤっとしたのは気のせい。
「あっ、ねえ……黒川くん……だよね?」
そうやって自己解決しているうちにも、女子たちはどんどん流くんとの距離を縮めていく。
「……え、あー……はい、そうですけど」
物理的距離も。
「誰か待ってるの?よかったら一緒に帰らない?私たちと」
心の距離も___。
「あー、すみません。俺、待ってる人いるんで」
流くんの声が聞こえる。
そっか、待ってる人いるんだ。……やっぱり、彼女さんなのかな。
「えー、それって彼女?」
「……いや、」
「えーっ、ならいいじゃん!帰ろう?」
年上で、異性で、ましてや関わったことのない人への断り方がわからないのか、流くんの戸惑った声が聞こえた……けど。
見ない、見ない。絶対に見てやらない。
わざと流くんとはいる反対方向に顔を向けて、なるべく足早に通り過ぎ___ようとした、のに。
「海花先輩」
そんな不器用な彼が私の名前を呼ぶのは、簡単みたい。
「……無視?」
そうやっていつものように少し不満そうな表情をした流くんが、私を引き留めたことに。
私の名前を呼んだことに。
あの女の子を振り切ってまで、私を優先してくれたことに。
___ほっとした自分がいた。