年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
流くんを見上げると、やはりそこには不満を隠しきれていない表情ながらも、整った顔がそこにあった。
その目は、私を見つめている。
「……何?」
「待ってた」
そう言って微笑む流くんは、本当によく笑顔を見せてくれるようになった気がする。
「いや、でも……」
まだ、あの女の子たちが……と、目線でそれを訴える。
流くんに甘い雰囲気を醸し出していた女子たちは、私と流くんの様子を見て明らかに不満そうな表情を浮かべている。私に無視されて不貞腐れた流くんのように。
「俺は先輩のこと待ってたんですけど。家まで送ります」
明るい金髪を揺らして歩き出す流くん。
なんだか、「先輩のことを待ってた」なんて言葉にくすぐられたような気持ちになる。
「……ありがと」
私の小さな声は、前を歩く彼に聞こえただろうか。
いや、きっと聞こえてないだろうな。
「でも、私一人で帰れるよ」
「……送るから」
「でもそんな距離ないし……」
「だから送るんだって」
「い、いいよ!流くんと家、反対方向でしょ!」
「いいって言ってんでしょ」
いつのまにか、私がわがままを言う子供で、流くんがそれを宥める大人みたいになっているじゃないか。
はいはい、わかったから。と適当にあしらわれるのが悔しくて、無言になって拗ねるふりをしてみる。
さっきから一回も振り向いてくれない流くんが、もしかしたら拗ねた私を振り返ってくれるかもしれないから。
でも、そんな私の些細な抵抗は無駄だったみたいで。
流くんは、ヘッドフォンをつけて耳を塞いでしまったのだ。
何よ、どうせ私の家なんて知らないのに。なんで私の前を歩けるわけ!
別にくだらないことを話して笑い合いたいわけじゃない。
前じゃなくて、歩幅を合わせて隣を歩いてほしいなんて思ってない。
ただ、年下にこんなに振り回されている自分に変な気持ちになって。
「流くんのアホ」
「聞こえてるんですけど」
大体、なんでそんなに流くんのことをチラチラ気にしてるわけ?
別に、なんだっていいじゃない。
「頑固、不良、バカ」
「……マジでなんなんだよ___」
「なんでそんなに私のこと、守ってくれたの?」
「……は」
やっと振り向いた。
流くんの目が、私を捉える。
私を見た流くんが、驚いたように目を見開いて。
「なんで私の場所、わかったの?なんで今日、待っててくれたの……?私って……流くんの、なに?」
声が震えて、尻すぼみになった情けない声が、静かな歩道に響く。
「……それは___」
流くんが目線を地面に映して、声を発した。
……聞きたくない。
そう思った時だった。
「海花?」
優太の声が、すぐ後ろで聞こえた。