年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
「え……優太」
なんかこんな場面、前もあったな、なんて考えていると、優太は私と流くんを交互に見て少し怪訝そうな表情をした。
「なにやってんの?今から帰んの?」
優太は、横にいる流くんの位置を奪うように割り込んでくる。
悪気はあるのか、ないのか……。
「うん、帰るけど……」
「……じゃあ俺が送ってくから」
「ちょっと、優太___」
私の腕を掴んで歩き始める優太。なにを考えているのかはわからないけど、どうしてか私の腕を掴む力が強い。
「……」
私の声なんてまるで聞こえていないかのような素振りにイラッとして、ついつい大きな声を上げる。
「優太ってば!」
「……んだよ」
ガシガシと頭をかいて、しぶしぶ歩みを止める優太。
んだよ、って……。
「流くんと帰ってたんだけど」
「だから俺が送るからもういいだろって」
「よくないよ」
なんでそんなに優太は焦ってるのよ。そんな意味を込めて軽く睨むと、優太は流くんの方に視線を向けた。
もうすっかり日も暮れて、頼りになるのは街灯と月明かりだけ。
それに、流くんの長い金髪のせいで、表情がよく見えない。
「ってことだから、海花は俺が送る」
優太の目は鋭く流くんを睨んでいた。なんでそんなに……。
流くんの微かに笑う声が聞こえて、少しだけ私たちに近づく。
ちょうど街灯の真下で立ち止まった流くんが、光に照らされて表情がやっと見えた。
笑ってるのかな、って思った。
「っ……」
でも、違った。
ごくりと唾を飲み込んでしまうほどに、笑っていなかったから。
さっきの空き教室で見たような、泣きそうな表情。___いや、優太にはわからないだろう。
だって流くんの表情って、一見なにも変わらないように見えるんだもん。
私だって、この前までは全然わからなかった。
嬉しい時はわずかに上がる口角も、悲しい時は下がる眉尻も、驚いた時に少しだけ開く口元も。
なにも気づけなかった___というか、気づこうとしなかった。
流くんに楽しいとか、嬉しいとか、悲しいとか、そんなのないのかなって。ずっとそう思っていたけど、全く違った。
流くんは、ちゃんと嬉しい時も、悲しい時も、表情に出ているから。
でも、今の流くんの表情は、全然わからなかった。なにをそんなに悲しそうにしているのか、なにをそんなに悔しそうにしているのか、なにをそんなに怒っているのか。
___なんでそんなに泣きそうな顔をしているのか。
「ながれく___」
「___さよーなら」
そんな私の言葉を遮る別れの言葉。
……なんで。どうして。
私がそんな表情をさせてしまったことに変わりはないのに。
全くわからない。
「帰るぞ」
「……うん」
結局その日は、優太に引っ張られるまま家に帰った___。