年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
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教室の引き戸を開けると、机に突っ伏す海花の姿。
すやすやと微かな寝息をたてる海花に、そっと近づく流。
「……先輩、疲れてんじゃん」
ポソリと流の口からこぼれた言葉は、静まり返った教室内に反響して、後味が悪く消える。
口調からして、少し前から海花が体調を悪そうにしていることに気づいていたのだろう。
流は、小さな背中に彼女のそばに置いてあった彼女のブレザーを優しくかけると、そのまま海花を見つめる。
よく見ないとわからないが、目の下にうっすらと浮かぶクマ。寝ていなかったのだろうか。
なんにせよ、あまり万全な状態ではないのだろう。___それなのに、辛いとも、しんどいとも言わずに、当たり前のように自分に勉強の教えを与えてくれる海花の優しさが、今の自分にはどこか苦しい。
無理をしてるって、俺には一目でわかるのに。それを言おうとしない、言ってくれない。
俺は頼られていないのか、と軽く落ち込む流は、しばらくぼーっと海花の顔を見つめていたけれど、いつのまにか下校時刻に近づいていることに気づくと、何も言わずにバッグを持った。
さっき自販機で買ってきたまだ温かい缶ココアを机の上にコトンと置いて、そのまま海花の髪に触れようとする流の頭の中に思い浮かぶのは、彼女の幼馴染だという"優太"の姿。
___そうだ、俺は先輩の幼馴染でも、彼氏でもない。ただの後輩、なんだから。
そう思い直すと、流は引っ込めた手を、深くポケットに突っ込んだ。
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