年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
気づけば放課後となり、空き教室へ行って流くんと会うのが少しだけ気まずかった。
あんなふうに私の教室まで来て、「流くんのことが好き!」って宣言するくらいなんだから、私に何か忠告しているのだろうか。
あんまり近づかないでもらってもよろしい?的なことを言われているのだろうか。考えただけで背筋が凍っちゃいそうだよ……。
「先輩?聞いてんの」
「え、あっ……ごめん。えーと……」
相変わらず流くんとの関係性もどこか気まずくて。
居心地の悪い空気が私たちを包んでいた。
私が何かしたのか……そんなことはもう、百年くらい考えた。それなのに、全然わかんない。
私に心当たりがないってことはやっぱり、流くんに何か思うことがあったのだろう。
___よし、聞こう。聞かないとなにもわからないままだし、前みたいに一緒に笑いたいよ。
そう決心して、口を開く。
「あの……さ、流く___」
「帰りましょーか」
「……え?」
それなのに。
「先輩、全然集中できてねーし」
流くんは、私と目も合わそうとせずに、シャーペンをノートの上に走らせる。
なんでこんなに……冷たいの……?
「私、何かした?」
「そういうのじゃなくて、先輩が集中できてないって言ってんの」
違う、違う違う。そういう意味の「何かした?」じゃないの。
「先輩も集中できないんでしょ。なら今日は帰った方がいいと思いますけど」
ぐっ、と言葉に詰まる。
___集中できない。たしかに今の私、なんにも集中できてない。
なんでかわかんないけど、ずっと頭の中で流くんのこと考えたり。
岩木桃香ちゃんのことが気になったり。
正体不明のモヤモヤが邪魔するの。
「体調、わりぃ?」
うつむく私に、流くんは気遣ってくれるけど、その声はやっぱり前よりもそっけなくて。
ふるふると首を振る。……本当は、ちょっとだけ体がだるい。
流くんなら気づいてくれるんじゃないかって、自分でも呆れるくらいのしょうもない希望を抱いてる。でもやっぱり、流くんはすぐに立ち上がってしまった。
「……今週はもう放課後やめよ。……しっかり休んでください」
テストもあるし、と小さく付け足すけれど。
とうとうか、そう思った。ずっと覚悟はしてた。文化祭の次の日から。きっともう、私の役目が彼にとっていらなくなる日がくるんだろうなって。
それに、私なんかよりも可愛い子だって彼の周りにいる。
『好きなんです、黒川くんのこと』
あの時言われた言葉がずっと頭から離れない。そうだよ、岩木桃香ちゃん、私よりも年下だけど、とってもかわいくて、スタイルも良くて。
あの子と流くんが、一緒に歩いているところを想像する。
___うん、やっぱりお似合い。
もう話したのかな。……あるに決まってるよね、当たり前か。
そうやって自問自答を繰り返していたけど、その答えの先に行き着くものは全て___
「なんだ、私、邪魔者じゃん」
もう帰ろうとリュックサックを背負う流くんには聞こえないように、ぼそりとつぶやいた。
普通だよね、だって私、ただの教育係だよ?
そう自己解決した瞬間、すでに私は彼の背に向けて、言葉を発していた。
「やめよう」
いつもよりも少し早い時間帯で、まだ空は青い。