年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
そんな教室に、私の冷静な声が響いた。
「……何を?」
「放課後、勉強するの」
だってもう、ワークなんてスラスラ解けちゃってるし。この前の定期テストだって、学年の半分の順位取れてたし。
流くんなら、もう一人で大丈夫だと思うから。
「先輩、マジで何言ってんの?」
見るからに怒った様子の流くん。
「もう教えなくても、じゅうぶん内容理解できてるし___」
「いやだ」
「……」
なんで?なんでそんなに怒ってるの?
「俺とそんなに関わるの嫌ですか」
「……」
黙って首を横に張る。
「じゃあなんで急にそんなこと言い出すわけ?嫌なら嫌って言えばいいでしょ」
「……関わるのが嫌なんて言ってない」
「……」
「でも流くん、まだ一年生なんだから、もっと放課後、自由な方がいいでしょ!」
ダメだ、ここで泣いちゃ。
もっと流くんと一緒にいたい。もっと仲良くなりたかった。
そんなこと、口が裂けても言えないから。
お似合いな人がいて。
しかもまだ一年生で。
一番楽しい時期なのに、それを私が奪ってる。
「だから……ね!私、流くんのこと応援してる!」
今出せる限りの笑顔を、思い切り表情に映し出す。
「海花先ぱ___」
「黒川くん!一緒に帰ろう!」
教室の扉が開かれると同時に、聞き覚えのある声。あぁ、そうだ。もう私は二人の間にいていい人間じゃないんだった。
「刈谷さん、もう終わったんですよね?いいですか?」
「……うん」
「ちょ……岩木」
「黒川くん、今日駅前のクレープ屋さん行くって約束してたでしょ!」
強引に腕を引かれる流くんが、申し訳なさそうに私のことを見る。
「先輩、明日___」
私は、自然に下がっていた口角を無理やり上げて、笑顔を作ると、
「ばいばい」
___彼の声を、遮った。今までのどんなものより、精一杯の笑顔で。
それなのに、あぁ、もう。
なんで。
私の頬には、ポロポロと大粒の涙が伝っていた。
「……これでよかったはずなんだけどな」
誰もいない空き教室。私の声は、弱々しく教室に反響した。