年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
時間の流れって、案外早いものなのかもしれない。さすがに十二月となれば、朝から気温も低くて、ベッドから出るのも、登校するのも憂鬱になる。
「はぁ……」
流くんと会わなくなってから、数週間。あれからというもの、心のどこかにぽっかりと穴が空いたような感覚に陥っている。
放課後になると、なるべく早足で学校を出るし、休み時間も移動教室も、あの空き教室や流くんの教室の前を通らない。
まるで避けてるみたいじゃん。いや、実際にそうなんだけど。
なんだか居心地の悪い学校生活にも、ため息しか出てこない。
「海花、お昼食べに行こうよ」
詩織といつも一緒に食べているお弁当も、どこか味がしない。
この前、中庭で初めて流くんに話しかけられたっけなぁ。それで、流くんがモテモテってことを知って……。その日から流くん、ちゃんと私と会話をしてくれるようになって。
「もうやだぁ……」
本日何度目かもわからないため息が盛大に口から出る。
ずっと、ずっとずーっと、流くんのこと考えてばっかり。
「……もしかしてあの一年生のこと?」
詩織には、なんでかわかるみたい。
こくりと頷けば、詩織は私を見てクスリと笑った。
「な、なに笑ってるの!至って真面目にもうやだって思ってるんだよ!」
「なにがもう嫌なの?」
「えっ……」
そんな予想外の質問。なにがって……そんなの、
「ずっと流くんのことで悩んでる自分が……やだ、かも……?」
「ふっ、なんで疑問系なのよ」
またしても笑う詩織に頬を膨らませる。だってだって、何にも集中できないんだもん。
勉強も、顔を上げた先に流くんがいない。
放課後、どこの教室に寄ることもなく真っ直ぐ帰る。
なんでも流くん、流くんって。
「流くんのせいで何にも考えられなくなってるんだもん……」
「海花、それって___」
わかってるよ。
本当はずっと前から、気づいてた。……でも、そんな自分の気持ちが恥ずかしくて、蓋をしてたの。
だって、流くんだよ……?
周りには可愛い女の子がいっぱいいて、しかもその女の子はみんな彼に思いを寄せていて。
おまけに私なんて、流くんにとったらそこらへんにいくらでも転がっていそうな平凡な女子で。
「……もう諦めてるけどね」
「海花……」
へらっと笑うけど、うまく笑えてるかな。
そんな私の目線の先に飛び込んできた人影。
ほら、思い知ったか。
___中庭から丸見えの共有フロア。真ん中に置いてあるベンチに、二人の姿が見える。
なんで今なんだろ……。
そんな二人の姿をじっと見ているのも辛くて、目をそらそうとしたのに。
「っ、」
流くんの隣に座っている女の子___岩木桃香ちゃんと目が合った。
その瞬間、彼女と流くんは腕を組み、楽しそうに会話をし始めるけれど、岩木桃香ちゃんの目は私を捉えたまま。
その表情には、薄ら笑いが含まれていて、まるで私に見せつけているかのよう。
「教室、戻ろっか!」
そんな場面なんて、見ていられるわけがなく。心配する詩織を振り切って、立ち上がった。
もう諦めてるんだもん。
流くんのこと、好きって気持ちは___。