年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
ガラガラガラッ!と勢いよく保健室の扉を開けると、ピンクのカーテンで覆われた部屋の一角が目に飛び込んできた。
養護教諭はいないらしく、中は静まり返っている。
なるべく足跡を立てないように気をつけながらもカーテンの前までくると、そっとカーテンの布を開けた。
「っ……海花先輩……」
ベッドには、力なく横たわる先輩の姿。顔面蒼白で、いかにも体調が悪そうだった。
なんでこの人は、自分のことは心配しないで人のことばっかり気にするんだよ……。
泣いていたのだろうか、目尻には涙が溜まっていて、まつ毛もきらきらと光っている。
「俺があと2年早く生まれてたら、な」
そんな俺の声はすぐに静寂に溶けていく。
「ん……なが、れく……?」
「っ、先輩……」
俺は、ベッドのすぐそばにあるパイプ椅子に腰掛けると、うっすらと開いた彼女の目を覗き込んだ。
「ふふ、久しぶり、だ……」
ふにゃっと笑う先輩。
その自然で純粋な笑顔を俺に向けられることを、心のどこかでずっと待ち侘びていた。
「……俺のこと___」
嫌いになりましたか___その言葉がどうしても喉につっかえて出てこなくて。
代わりに、先輩の白くて柔らかそうな頬に手を添えて、親指で涙の跡を拭った。
「……どう思ってるんですか」
やっと絞り出したのは、回りくどくてダサいセリフ。
バカな俺。
先輩になんて言って欲しいかなんて、ひとつしかないに決まってるのに。
「好きです、海花先輩___」
閉じられた先輩の瞼を優しく撫でると、もう一度深くパイプ椅子に座り直して、深くため息をついた。