年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
「……優太」
私を呼んだ声の先には、息を切らした優太の姿。私を探していたのだろうか。
「何やってんだよ!おばさんも心配してた!」
ズカズカと近づいてきて、私の腕を掴む。
もうすっかりと日が暮れて、あたりが真っ暗なことから下校時間からだいぶ経っていることがわかる。
お母さんにも優太にも、心配かけちゃった……。
「ゆ、優太、今流くんと話してたの!だから___」
「今度でいいだろ。大体、お前海花が体調悪いの知ってんならこんなとこで道草食ってんじゃねーよ」
ま、まずい。優太が怒ってる。
優太は、流くんのことを睨みつける。
「待って、私のせいで遅くなったの!流くんは悪くないよ?」
すると、流くんは私に「いいから」と目配せをしてきた。
「俺、この前あんたの気持ちに文句ないって言いましたけど、あれ撤回しますね」
「っ、そんなことわかってる」
2人がなんの話をしているのか、私にはさっぱりわからない。
私のいないところで、2人は何かを話したのだろうか……?
「俺も好きなんで」
"好き"という言葉に、胸がドキンと跳ね上がる。
な、なんの話……?
優太は、小さく舌打ちをすると、私の腕を勢いよく引いて歩き出した。
「帰るぞ、海花」
「ちょっ、え……優太……!?」
慌てて抵抗したけれど、運動部で背も大きい優太の力に適うわけがなく……。
引きずられるように半強制で家へと連れて行かれる。
もちろん、私と優太で歩幅は倍近く違うわけで。
私の腕を掴む優太の力も、どんどんと強くなっていった。
「痛いよ……」
ついにそう声を出すと、優太はハッとするようなそぶりを見せてから、パッと手を離した。
「……わりぃ」
優太は、眉間に皺を寄せて険しい表情をしている。
「優太、今日変だよ……」
一体どうしたの……?
「海花」
今までにあまり見たことのない、優太の本気の目。その目が、私をまっすぐに見つめていた。
どことなく、さっきの流くんの目と雰囲気が似ているような、似ていないような。
「俺、ずっと___」
そこまで言うと、優太は下を向く。
そして、グッと何かを堪えるようなしぐさ。
「……なんもねーわ、悪いな」
そう言って、へらりと笑った優太の表情は、どこか寂しそうで、何かを言いたそうだった。
いつのまにかついていた家の前で、優太は片手をあげると、
「じゃーな」
と再び笑った。
その笑顔は、これ以上何も聞いては行けないような、奥に踏み入ることができないような、そんな気がした。
ヒュウっと、冬特有の冷たくて乾いた風が吹く。
___優しく巻かれた流くんのマフラーに、無意識に顔を埋めていた。
ずっとこうしていたい___そう思った。