年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
あれから、土日を挟んで月曜日になった。
登校を終え、下駄箱で靴を履き替えると、3年フロアに向かって歩き出した。
もうすっかり体調は良くなって、元気いっぱい!……のはず、なんだけどなぁ……。
紙袋に入った流くんの紺色のマフラーに目を向ける。
今日、返しに行かなきゃ。
なんだか、流くんを思い出すとドキドキして何も手につかないのだ。
「俺は先輩として見てない」
とか
「俺も好きなんで」
とか。
あの時、何が言いたいのかさっぱりわからなくて、ずっと胸の内側がモヤモヤしたまま。
しかも、なぜか優太と仲は良くなさそう。出会った初日は、笑顔で話してたんだけどなぁ。
もう、わかんない。2人とも何を考えてるのか。
わかんないことは考えないようにしよう、と俯いていた顔を上げた___。
「あ……」
もう、考えないって決めたのに、そんなもの一気にかき消されてしまう。
「おはようございます、刈谷さん」
「お、おはよ……う……?」
1年フロアへと続く階段の前に、桃香ちゃんが立っていた。
お人形さんのような綺麗な顔で私に笑いかけると、桃香ちゃんは場所を変えるように促した。
「ど、どうしたの?」
「桃香、黒川くんのこと好きなの知ってますよね?」
ドキリとした。流くんの話題に少し後ずさると、こくりと頷く。
「だから刈谷さん、好きにならないでください」
えっ……。
なに、どういうこと……?
「黒川くんは、桃香のこと好きなのわかるでしょ?」
「っ……」
付き合ってたり……するのかな……。
だって、お似合いだもん。
私が男子だったら、きっと桃香ちゃんに一目惚れしてしまうくらい。
でも……。
それでも、もう好きになっちゃったんだもん……。
この気持ちは、どこに行ったらいいの?
なんで、好きになってしまった人を「好きになってはダメ」なんて言うの?
「ごめん。それはできないよ」
「……」
桃香ちゃんの大きな目が私を睨みつける。
「私も、流くんのことが好き」
初めて言った。
初めて人に、自分の好きな人を言った。
「だから……私も、好きになってもらえるように頑張るの」
「さっきの聞こえなかったの?桃香のことが好きなの!」
「それ、本当にそう言われたの?……そう感じてるだけじゃなくて?」
流くんは多分、好きな子にはとっても一途で優しいと思う。わからないけど。
「っ、黒川くんに関わらないでよ!」
顔を真っ赤にした桃香ちゃんが走って教室を出ていく。
キーンコーンカーンコーン___。
朝休み終了の合図が校内に鳴り響いた。