年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
昼休み。
一緒にお弁当を食べていた詩織に断りを入れ、流くんのマフラーが入った紙袋を持つと、1年フロアへと向かうために階段を登っていく。
流くん、教室にいるといいな……。
「きゃはは!たしかにぃー」
「まじでやばいよね?」
うぅ……やっぱり、1年生フロアは苦手だ。
私たちの学年と違って、今年の1年生はかなりヤンチャな生徒が集まっているらしく……。
だから初めて1年生フロアに入った時、初対面の男子生徒に連れ去られそうになったのか……。
ちょっとだけ怖いな、なんて思いながら、流くんの教室の前まで足を運ぶ。
「……あれ……」
チラリとドアの隙間から教室を覗くけど、流くんらしき生徒が見当たらない。
流くんのクラスってここだよね……。
もしかして、他の場所にいるのかな?
マフラーが入った紙袋を胸に抱きしめながら、一通りフロア内を見てまわったけれど、流くんはいなかった。
どこに行ったんだろう?
「あっれ、流の先輩じゃね?」
「あ、ほんとだぁー。この前の流に告白しにきてた!」
「えっ……あ、」
そんな声が横から聞こえ、とっさにそちらを向くと、流くんに初めて自分から会いに行った時に、流くんの周りにいた人たちが、私を覗き込んでいた。
たしか、告白しにきたとか冷やかしてきた、あの人たち。
この人たちなら、流くんがいる場所知ってるかも……。
「あの、流くんどこにいるか知りませんか?」
そう聞けば、1人の女子生徒が、思い出したようにポンと手をついた。
「最近、2組の岩木さんにずっと付きまとわれてるよねー?」
「たしかに、アイツ、絶対流のこと狙ってるよな」
「でもなびいてねーよな」
聞いていると、桃香ちゃんが流くんのことを好きなのはみんな知っているらしい。
流くんも、知ってるのかな……。それを聞いて、流くんは桃香ちゃんを意識したりしているのだろうか。
胸がモヤっとした。
「昼休み、流は岩木から逃げ回ってるよ。だからいつも教室にはいないと思うぜ」
だからフロア内にいなかったのか……。
でも……昼休みは桃香ちゃんが流くんと一緒に過ごしてるってことなのかな。
「そう……なんですね……」
人気のない場所にいるってこと……?
ぺこりと頭を下げて、一度教室に戻ろうと背を向けた時、
「あっ、ちょっと待って!」
そう呼び止められた。
流くんのお友達の1人は、振り向いた私の顔をまじまじと見て、興味深そうに笑みを浮かべた。
「もしかして、黒川教育係の人だったりする?」
「えっ、あのウワサの!?」
「この先輩がまじで?」
黒川教育係……?
その単語が出た瞬間、みんなが一斉に私の顔を見つめる。
あくまで前の話、だけど……。
もう今は勉強教えてないし……。
肯定するべきか否定するべきか迷っているうちに、私の無言を肯定として受け取られたらしく。
「まじかー、この人だったんか!」
驚くような素振りで、みんなが私を見て頷いた。
「唯一、流が微笑みかける天使だってウワサになってるんだよね」
て、て、天使……!?
「ひ、人違いですよ……!」
ブンブンと首を振る。
た、確かに流くんは私に笑顔を見せてはくれるけど……。
絶対私が天使なんかじゃないはずだよ!
「流がその3年生に惚れ込んでるって話!」
でも、それってただのウワサ……だよね?
百聞は一見にしかずって言うし、そんなの簡単に信じちゃいけないよ。
苦笑いで誤魔化していると、1人が私にコソッと耳打ちした。
「流のこと、好きなんでしょ!教育係さん」
「っ……!」
顔が真っ赤になっていくのを感じて、思わず後ずさると、どっとみんなが笑った。
「最近流が俺らと全然遊んでくんねーって思ってたら、先輩だったんか!」
「仕方ないなーそりゃ!」
「応援してやる!」
すごくチャラくて陽気な人たちだから、もっと私についていけないような何かがあるんじゃないかと思っていたけど、とってもいい人たちだなぁ。
そう思って、私も笑みを返した瞬間、1人の生徒が廊下の奥を指差した。
「流帰ってきたよ、天使先輩!」
「えっ」
とっさに振り向く。
あ……流くんの金髪だ……。
廊下に人がいるから、あまり見えないけど、流くんの明るい金髪ですぐにわかった。
「天使先輩、これから告白するの?」
「しっ、しないよ……!しかも天使先輩って……!」
どんなネーミングセンスしてるの……!?
そう突っ込みたい気持ちは、一瞬にして飲み込んだ。
流くんを見つけられて、嬉しい気持ちも一緒に。
「___っ!」
「えっ……」
「は……?」
廊下の真ん中で、女の子とキスする流くんの姿が見えたから___。