年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
「それで付き合ったの!?」
先ほどから、キャーキャーと楽しそうに黄色い声を出す詩織。
「いいね、じゃあクリスマスも一緒に過ごすの?」
「あ……」
ほ、ほんとだ……。今週末は、12月25日、クリスマスだ。
たしかに、恋人同士はクリスマスを一緒に過ごすっていうけど……。
頭の中に思い浮かぶのは、流くんと……大学受験。
2月に受験を控えているから、もうあと2ヶ月しかないのだ。
受かるように頑張ってるけど……正直、自信満々ってわけでもない。
ちょっぴり怖い。
「わかんない……」
そういえば、流くんと学校以外の場所で会ったこと、ないな……。
でも、流くんはお友達からも人気だから、クリスマスも友達と過ごすのかな。
詩織も彼氏がいて、きっと彼氏さんとクリスマスを過ごすんだろうけど……。
もし私が流くんを誘って、予定があるからって断られたら……と思うと、なかなか怖くて言い出せない。
「でも話を聞く限り、黒川くん、海花にベタ惚れだね。誘ったら絶対来てくれると思うけどなぁ……」
「さ、誘ってみようかな……?」
「頑張って!」
そう言って私に目配せをすると、詩織は小走りで教室を出ていった。
どうしたんだろ……と、さっき詩織が目配せした方向に視線を向けると___。
「っえ……!?」
な、流くん……!?
教室のドアの前で、私を待つ流くんの姿。
み、見間違いかな……と思って頰をつねってみたけれど、どうやら現実らしい。
どうりでさっきから、ちょっとだけ廊下が騒がしいはずだ。
教室内にいた女子のクラスメイトが一斉に目を輝かせ、身なりを整え出す。
私は、慌てて席から立ち上がると、何もないところで足を絡ませてつまずきながらも、流くんのもとへ行く。
「どっ、どうしたの……!?3年フロアまで!」
「や、特に用はないんですけど……」
ゴニョゴニョと口ごもる流くんは、まるで大型犬みたい。
見えない尻尾を振っているのがバレバレなように、嬉しそうな表情が隠しきれていなかった。
「あ、会いたかったって……こと……?」
図星を突かれたのか、わかりやすく目線を逸らされる。
か、かわいい……。
流くん、付き合ってなかった頃から変わったことがひとつだけある。
「別に、なんでもよくないですか」
それは、重度のツンデレだということ。
告白してくれた時は、何度も私に「好き」と伝えてくれて、甘えたが全開モードだったのだけれど。
それ以来、今日のこれみたいに、ツンツンモードが前線に出ている。
意外と照れ屋なのかな。
クスッと笑うと、流くんは眉間にしわを寄せて「なんですか」と口を尖らせた。
「あっ、流くん!今日、一緒に帰れないや……ごめんね」
予定が揃う日は、2人で一緒に帰ってるのだけれど、私が委員会に入っているせいで帰れない日もあるわけで……。
そう謝ると、流くんは「わかった」と頷いた。
「先輩」
「うん?」
「クリスマス、予定空いてますか」
クリスマス、その単語を聞いてドキッとする。
「も、もちろん空いてるよ……?」
「……会いたい」
甘えるようにそうつぶやいた流くん。
まさか本当に会えるなんて、思ってなかった。しかも、流くんの方から誘ってくれるなんて。
休みの日に流くんに会えるのと、素直に流くんが「会いたい」なんて言ってくれたので、嬉しくて嬉しくてもうその場で踊り出したい気分だった。
でも、そんな気持ちはグッと堪え、代わりに満面の笑みを浮かべる。
「うん!」
そう言うと、流くんは嬉しそうに微笑んで同じようにうん、と頷いた。