年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
「っ……」
「わっ、ちょ……流くん!?大丈夫?」
部屋の扉が開くなり、力なく私に寄りかかってきた流くん。
完全に身を任せられてるわけではないとはいえ、大きな体の流くんを支えるのは重くて大変だ。
「ごめ……」
流くんの表情は見えないけれど、支えるために触れた彼の体温は燃えるように熱くて、声も低く掠れていた。
「支えるからベッドまで歩ける?」
ゆっくりと流くんをベッドまで運び、大人しく寝かせる。
息も荒れてるし、苦しそうだし……お見舞い、来てよかったかも。
もしこのまま一人で過ごしていたら、流くん本当に危ない状態だったかも。
「なんで……わかったんですか」
ぎくっと背筋を凍らせる。突っ込まれるとは思ってたけど……。
流くんの友達に聞き出したなんて言ったら、絶対しつこいって思われる。
「お……女の勘ってやつ?」
「嘘つくのやめてください」
相変わらずツッコミは早いんだな……と思いながら苦笑いをする。
「流くんのお友達が……教えてくれたの。勝手に聞いちゃって、ごめんね」
素直に謝ると、流くんはそんな私を見てふっと笑った。
「いつか連れてこようって思ってましたから」
「っ!」
熱が出てるせいで、ちょっとだけ感覚が欠けてるのかな。
真っ赤になった顔を隠すように流くんから目を逸らす。
「お、お腹!お腹減ってる?ゼリーとか、飲み物とか、色々買ってきたよ」
「……すみません、腹減ってなくて」
申し訳なさそうに謝る流くんを見て、少しおせっかいだったかな、と反省する。
「じゃあ置いておくね、水分はちゃんと摂るんだよ!」
流くんも寝たいだろうし、今日は帰ろう。一目見れただけで万歳だ。
「押しかけてごめんね。じゃあ今日は帰る___」
「先輩」
立ち上がった瞬間、流くんの火照った手が私の腕を掴む。
「ど、どうしたの……?」
「お願い、あるんだけど」
流くんの瞳が私を捉える。
「私にできることならなんでも言って!」
流くんから頼られるなんて、そんなの頷かないわけないよ!
「何したらいい?___ひゃっ」
そう言って首を傾げた瞬間、腕をぐいっと引っ張られてバランスを崩した私は、そのまま流くんの上にダイブしてしまった。
「一緒にいてほしい」
耳元で囁かれる、低くて甘い声。
い、一緒に……いてほしい……って、そんなこと、初めて言われた……。
流くんの長い腕が、私の腰に回る。そして、流くんが私を覆い被さるように、一気に体勢を逆転される。
「っ、な、流……くん……?」
「なあ、先輩」
「っ……」
流くんの熱い指が、私の首筋をツーッと撫でる。
「男の部屋に一人で来るってどーゆー神経してんの……?」
「えっ……」
流くんは、感情の読み取れない表情で私を見つめる。
「俺、今そんな理性とか余裕ないよ」
首筋、鎖骨、肩、横腹___体のラインに沿って這う流くんの手。
妙に優しい手つきで撫でられるから、なんだか焦ったくて。
「な、がれくん……?」
「ん?」
すごく優しい目で答えてくれるものだから、なんだか胸がきゅっと苦しくなる。
「なんか雰囲気ちが……っ!」
ちゅ、と鎖骨にキスを落とされる。流くんのサラサラな金髪が首に当たって少しくすぐったい。
「どうなってもいいのって言ってるつもりなんだけど」
いつもより甘い雰囲気の流くんに、全てを飲み込まれそう。
流くんの熱っぽい瞳は、まるで獲物を定めたライオンのようで。
でも、不思議と怖くはなくて。
全てを流くんに委ねたい___そんなことを思っている自分がいた。
「いいよ……?」
「……は?」
「流くんに触れられるの、やじゃない」
あぁ、もう。
なんてことを口走ってるの、私。
「流くん、大好き……」
でも、流くんへの「好き」が抑えきれなくて、こぼれ出てしまった二文字。まるで、私が不意に告白しちゃった、あの時みたい。
流くんは、大きく目を見開くと、困ったように笑ってから、そのまま私の肩に顔を埋めた。
「ほんとにわかってやってんのかよ……」
流くんの高い体温が、優しく私を包み込む。
「俺も……大好き」
流くんが小さくそう呟いた後、規則正しい寝息が聞こえるまでに、そんなに時間はかからなかった。
「メリークリスマス、流くん」
布団をかけ直すと、もう一度、流くんの背中に手を回した。