年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
そんな日の放課後だった。
《今日用事あって一緒に帰れません》
そんなメッセージがスマホに届いた。
そっかぁ、一緒に帰れないのか……。仕方ないか、用事だもんね。
それにしても流くん、毎日私と一緒に帰ってくれて、しかも家まで送ってくれて、迷惑じゃないのかなぁ……?
私は流くんと一緒にいれる時間が増えて嬉しいけれど、流くんはどうなんだろう。
今度、迷惑じゃないか聞いてみようかな。
そんなことを思いながら、荷物をバッグに詰めて教室から出ようとした時だった。
ピロン♪
先ほど閉じたスマホから、再びメッセージが届く音が鳴った。
もしかして、流くんかな……?
どうしたんだろう。
スマホのロックを外してアプリを開くと、そこには
《優太》と書かれた文字。
ゆ、優太からメッセージ?
今日、学校来てたよね?なのに、なんでわざわざ……。
戸惑いながらもすぐにトークルームを開くと、そこには《まだ学校残ってる?》という淡白な文章。
優太とは家が近くて、しかも学校も一緒だから、何か連絡があるときはいつも口頭で言い合っていたものだから、優太とメッセージを通してやり取りをするのは数ヶ月ぶりくらいかもしれない。
《残ってるよ》
そう返すと、まるで私のメッセージを待っていたかのようにすぐに既読マークがついた。
何か緊急の用事なのかな?
《教室?》
《うん》
《行くわ》
なんだ、優太も学校に残ってるんじゃん。だったら、わざわざメッセージ送ってこなくても……。
こんなに改めて優太が私に会いにくるなんて初めてなものだから、なんだか変に緊張してしまう。
《教室で待ってて》
そう続けざまに送られてきたメッセージを見て、椅子に座り直した。
そんなの、今までなかったのに。急にどうしたんだろう。
最近、優太が何を考えているのかわからなくなる時がある。
幼稚園の時から一緒で、家族ぐるみで仲が良くて。それなりに優太の考えてるところとか、思うこととかわかることもあったんだけどなぁ。
だからこそ、流くんと仲良くなって欲しかった、んだけど……。
どうやらあまり仲良くないみたいだし。むしろ、お互い敵意がむき出し、そんな感じ。
もちろんこれから、優太とも仲良くしていきたいけれど、さすがに距離を考えた方が良かったかも。
今まで近すぎた気もするし……。
そんなことを思っていると、教室の扉が静かに開かれた。
「……よう」
「おつかれさまー」
教室に入ってきたのは、いつもとどこか雰囲気が違う、私をまっすぐに見つめる優太だった。
「優太?急に何、どうかした?」
「……や、別にこれといったようなことはねーんだけど」
「えー?なんか隠してるでしょ!」
「……」
え……。優太、本当にどうしちゃったの?
私の席の隣の椅子に座って、下を向いた。
表情はよく見えないけれど、いつものように明るくて、私を馬鹿にしてくる優太のテンションではないことはわかる。
こんなにも押し黙って、静かで、何かを我慢しているような優太を見るのは初めてで。
……いや、初めてじゃ……ない、かも……。
思い返せば、ここ最近、優太がこんな表情をすることがあったのかもしれない。
流くんと一緒に下校してた日……。
流くんが家まで送ってくれるって言ってくれたから、それに甘えて送ってもらった時。
ちょうど家から出てきた優太と鉢合わせしたっけ。
その時、優太は何もないかのように私たちの横をすり抜けていったけど、一瞬だけ見えた、優太の何かを我慢するような表情。
他にも、ジャージを貸してもらう時、流くんに貸してもらうって言いかけた時にも、同じ表情……してた。
「ゆ、優太……?ほんとに、どうしたの?」
理由はわからないけれど、私が優太をこんなふうにさせてるの……?
原因もわからないもどかしさに頭の中がはてなマークでいっぱいになる。
「何かあった?……ねぇ」
そう言って、優太の顔を覗き込もうとすると、不意に優太が顔を上げた。
笑ってもないし、泣いてもいない。
でも、少しだけ切なそうな表情を浮かべた優太。
「なあ、海花」
「な、に……?」
時が止まってるんじゃないかって思うくらい、静かな空間が私たちを包んだ。
今までに見たこともないくらいの優太の真剣な瞳が、私を捉える。
ごくりと唾を飲み込む。今から優太がする話は、きっと真剣なこと。
だから、私も真剣に聞かなきゃ。
___でも。
私たちがずっと築いてきたただの幼馴染という関係は、たった一言でひっくり返されることを知ってしまった。
「好きだ」
優太の発したたったの三文字。
好きだ、そんな言葉は、夕方のオレンジ色の教室に、静かに反響した。