年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
流 side
その日は、なんだか落ち着かなかった。
いつにも増して心臓のテンポが早くて、ずっとずっとスマホの前で悶々としていた。
「おい、黒川!授業中にスマホを触るな!」
「……」
そんな教師の声すら聞こえないほど、教科書すら置かれていない机の上には、スマホが一台。
「全く、黒川ぁーっ!!!」
___スマホを没収された。
ただ授業を聞いていなかっただけで。いいじゃないか、テストの成績は先輩に教えてもらって30位以内に入るようになったんだから。
「流、お前今日どーしたわけ?」
「スマホになんかあんのか?」
授業が終わって、早速席の周りに集まるクラスメイトたち。
「別に、なんでもいいだろ」
「はぁー?もう、流ったら!俺たちと絡むのが嫌なんだって!」
「馬鹿、そこまで言ってねぇだろ」
今から早退して直行しても、怒られるだろうなぁ……そんなことを考えながら、クラスメイトたちを受け流す。
「邪魔、こんなとこ群がって迷惑ってわかんねーわけ?」
「ひっ」
ほら、そんなに騒いでるからクラスメイトに怒られるんだろ。
「俺、帰るわ」
「っはぁ!?えっ、ちょ……流!?」
机の横にかかっていたバッグを持つと、そのまま帰るために出口は向かって歩き出す。
スマホを返してもらって連絡を待つよりも、俺から会いに行こう。
きっと、その方がいい___。
「マジお前最近あの先輩となんかあったわけ?変わったよな」
教室を出る手前、俺が帰ることに悔しそうにする奴らに向かって一言。
「……関係ないでしょ」
彼女だけど。
それを知られたら、興味本位で教室まで観に行くような奴が現れるから言わない。
職員室に早退する旨を伝えて、具合が悪いふりをして学校の校門を出ると、俺は自分の家と反対方向に走り出した。
___先輩。海花先輩。
俺の頭に浮かぶ愛しい人。
受験の日から今日まで、ずっと連絡も取っていないし、会ってもいない。
そして今日は、合否発表の日。
あの日、玄関に入る前に先輩は言った。
___結果がどうなっても、一番に会いにいくね。
違う、俺が会いに行く。
言い訳はどうしようか。
一刻も早く会いたくて、そんなこと言えば、引かれるか……?
たまたま学校が早く終わって……いや、バレるか。
……そんなこと、どうだっていい。
今はただ、先輩に早く会いたい。そんな感情に頭の中が支配されてる。
そんな自分に自分でも驚いているくらいだ。
俺は相当、惚れ込んでるんだろうな。
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ようやく着いた《刈谷》と表札に書かれた家。
俺は軽く息を整えると、少し躊躇しながらも、海花先輩に電話をかける。
……1コール目
……2コール目
……3コール目
そして、4コール目が始まったその瞬間、プツッと機械的な音が聞こえた。
___そして。
『もしもし……流くん?』
愛しくて愛しくてたまらない、そんな声。
『どうしたの?学校じゃないの?』
やっぱり、学校が早く終わったとかいう言い訳は通用しなさそうだ。
「会いたくて来ました。すみません」
『えっ?』
そりゃそうか。
海花先輩、早退して来たなんて言ったら怒るだろうなぁ。
それすらも楽しみにしてしまっている自分が怖いくらいだ。
ガチャッ___そんな音と共に、玄関から慌ただしく出て来たのは___。
「流くん!学校どうしたの!」
案の定、制服姿の俺を見て怒り出す海花先輩。
そして___
「会いに来てくれて、ありがと」
小さくて華奢な体で、頑張って俺を抱きしめる海花先輩___。
あぁ、もう、こんなの抑えろっていう方が無理じゃないか。
「っ、ながれく……んっ……」
がっつくように、先輩の小さな唇を奪う。
「___かわいい」
もう、この気持ちにストッパーをかけることは、誰にもできないんじゃないか。そのくらい、海花先輩を前に「好き」という気持ちが溢れてしまう。
本当に心配になるくらい俺、惚れてる___。