年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
「いい?入るよ……?」
「大丈夫です」
見たことがないくらい、ガッチガチに緊張している流くんを後ろに、玄関の扉を開ける。
そして、流くんが玄関に入ったことを確認して扉を閉めると、リビングのキッチンにいるであろうお母さんを呼ぶ。
「お母さーん!」
「なにー!?」
「ちょっと玄関まで来てー!」
料理中で手が離せないのだろうか。お母さんには少し申し訳ないけれど……。
「どうしたの海花___って、あら!」
私の隣にいる流くんを見た瞬間、お母さんは大きく目を見開いて、びっくりしている。
そりゃそうだよね。だって、お母さんが見たこともない背の高い男の人が私の隣にいるんだもん。
「初めまして。海花さんとお付き合いさせていただいております、黒川流と申します」
一瞬にして、あっけにとられた。だって、流くん、見たこともない柔らかい表情でお母さんに挨拶をするものだから……。
「は、はじめまして〜!ながれくん、イケメンなのねぇ!」
やっぱり。
お母さんは、そんな流くんににこやかに笑いかけると、リビングに入るように促した。
「海花、いい人見つけたのねっ」
すっかり上機嫌のお母さんが、コソッと私に耳打ちをしたけれど、少し恥ずかしくて肩を縮めた。
「さぁ、そこに座って待っててね!」
言われた通り、二人並んでダイニングテーブルの椅子に腰掛ける。
初めて見た流れくんのよそ行きの表情に、本当はびっくりしていた。
だ、だってだって、あんなに緊張してた流くんが、お母さんとあんなににこやかにお話してたんだよ……!?
すごいなぁ、流くん。
「いい人ですね、お母さん」
「へへ、そうでしょ」
お母さんを見て少し安心したのか、流くんは深呼吸をひとつした。
「ごめんね、今うちにこんなものしかなくて」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
お母さんが差し出したお茶と和菓子を丁寧に受け取る流くんをじっと見つめる。
本当に、綺麗な顔してるんだなぁ。
……ずっとこんなふうに笑っていればいいのに。
そう思ったのもつかの間で、お母さんは興味津々という態度で次々と質問を投げかけた。
「で、二人はどこで出会ったの?」
そんな質問に、私たちは顔を見合わせた。
私たちって、「教育係」なんて異様な出会い方、したんだよね。しかも、出会った当初は、流くんは私を警戒していて……。
「僕が少々学業が苦手でして、海花さんに教えてもらうことになったのが出会いです」
「へぇ〜、じゃあ同じクラスじゃなかったんだ?」
「お母さん、流くんは高校一年生だよっ」
ま、まさかお母さん、流くんが私と同い年だと勘違いしてる……!?
わかるよ、わかるけど……!だって流くん、すごく大人っぽくてかっこいいし……。
「えぇ!そうだったの!ごめんなさいね。……それにして、とっても大人っぽいわねぇ〜」
はぁ〜、と感嘆の声を漏らしながら、流くんをじっくりと眺めるお母さん。
「いえ、そんな……」
「じゃあ、どっちが告白したの!?」
「僕……です……」
「なんて言ったの!」
「好きだと……伝えさせていただきました……」
「ちょっと、お母さん!恥ずかしいからやめて!」
みるみるうちに流くんの顔はゆでだこのように真っ赤になり、頭から湯気が出てしまいそうになった時、さすがに私がために入った。
このままじゃ、流くんが倒れちゃうよ……っ!
「私ったら、ちょっと興奮しちゃって。久々の恋バナをしたものだから」
うふ、と笑うお母さんは、うっとりと遠くを眺めてから言った。
「海花、少し流くんと二人で話しても、いいかしら?」
「えっ?……う、うん。いいけど……」
流くん、お母さんと二人になって、また質問攻めにあったりしないかなぁ。そんなことを思いながらも、私は流くんに小さくて振って家を出た。
「どこ行こうかなぁ……」
行き場のない足は、ただ気が向くままに頼りなく前へ進んでいく。
空は、夕焼けでオレンジに染まっていた___。