年下ヤンキーをなめちゃいけない理由
卒業
三月となった。
ずいぶんと暖かくなった青い空に、ピンク色の桜の花びらが舞っている。
《卒業生、退場》
そんな日の卒業式は、少し切なくて寂しい、そんな雰囲気だった。
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「とうとう卒業だねぇ」
泣いている人が多い中、私と詩織は、今日という日を味わうように空を眺めていた。
大学に合格してから、飛ぶように時間が過ぎていって、もう卒業式だ。
今思えば、この1年間はすごく早かったかも。
わけがわからない流くんの教育係を任されて、文化祭やクリスマス、お泊まり……。
数え切れないくらい、たくさんの思い出が脳内を桜の花びらのように舞っている。
「お別れだね」
___それでも、式が終わってしまった以上、いつまでも学校に残るわけにはいかないから。
校門をぞろぞろと出て行く卒業生をぼんやりと見ながら、その流れに私たちも歩き出す。
「詩織!」
声のした方を向くと、卒業証書を持った詩織の彼氏___降谷玲弥くんが、詩織に駆け寄っていた。
「……あ、玲弥」
「卒業、おめでとう」
「玲弥も、おめでと」
二人は、同じ大学に通うみたい。
___そんな二人を、いいなぁ。なんて、不覚にもそう思ってしまった。
好きな人と一緒に学校だなんて、どれだけ幸せなことだろう。
毎日授業を合わせれば会えるし、決して距離だって遠くない位置にあるはずだ。
___私は、どうだろう。
私に手を振ってから、一緒に歩いて行く二人の背中をぼーっと見つめながらそう思った。
他県の大学の近くに引っ越して、大学生活に馴染むように頑張って、バイトをしてお金を貯めて。
そんなことをしていたら、次帰ってこられるのはきっと夏。
___気づけば、帰ろうとしていた足先を変えて、あの空き教室に来ていた。
大学の夏休みである八月___それは、今から約半年後。
だから、流くんに会えるのも___。
あと、半年後っていうこと。
会いたくて会いたくてたまらない、そんな人に半年後にしか会えない。そんな状況、私は耐えられるのだろうか?
……いや、私だけじゃない。
なにより、流くんだってつまらないはず。
流くんはまだ高校一年生で、まだまだやりたいことがあるのに。
体育祭だって、文化祭だって。
全ての楽しい行事が、あと2回ずつ残っているのに、そこに私がいない。
「そんなんで……ほんとに流くん……幸せなの、かな」
卒業証書が入った筒を握りしめると同時に、床にぽたっと一粒の涙が落ちた。
大粒の涙は、ガラス玉のように弾けて、消える。
その消えた涙が、今感じている幸せだったらと思うと、余計に怖くて。
どんどん連絡頻度も減って、私のことを考える時間もなくなって。
付き合ってるかどうかもわかんなくなって。
___そんな自然消滅になるんじゃないかって。
「ふっ、ぅ……うぅ……っ、別れたく……ないっのに……」
廊下には誰もいないことは分かりきっているのに、声を押し殺して涙を流す。
「ながれ、くっ……」
無意識にそうやって、名前を呼んだ時だった。
「呼びましたか、海花先輩」
愛しくて愛しくてたまらない、私の大好きな人の声が私を包んだのは。