きゅんする毎日の結末
せとかと真山くん
「傘、持ってこなかったの?」
「ま、真山くんっ?!」
驚くあたしに、真山くんは少しだけ困ったように、だけどいつもの笑顔で笑ってくれる。
ようやく、今日はじめて、あたしの胸がキュンと弾んだ。
「降水確率、午後から100%って言ってたよ? 天気予報見なかった?」
「あ……うん。見なかった」
朝も真山くんのことが気になってご飯も喉を通らなかったし、テレビも見ていなかった。
「そっか、じゃあ、俺はラッキーだね」
「……え?」
真山くんが差し出してくれている傘は、二人で入るには少しだけ小さい。
あたしは雨に当たることなくしっかり傘に守られているけれど、真山くんの肩が濡れてしまっているのに気がついた。
「真山くん、濡れてる」
「あー、えっと……」
考えるように悩みながら、真山くんが学校の自転車置き場を指差した。
「雨宿りしながら雨が弱まるまで話さない?」
「……うん」
あたしは真山くんと横に並んで、打ち付ける雨を避けて自転車置き場の屋根の下で雨宿りをする。
「ほ、ほんとはさ、ちゃんと誕生日に、渡したかったん、だけど……」
急にそう言いながら、制服のポケットに手を突っ込んだ真山くん。
出てきたものは、長方形の細いカラフルな包装紙にピンクのリボンがついている。
「はい。開けてみて」
「え?! あ、あたしに?」
突然のプレゼントに、戸惑うあたしに構わずそれをあたしに近づける。
目の前に突きつけられて、驚いてしまったけれど、そっと真山くんの手から受け取った。封がしてあるハッピーバースデーのシールを丁寧に剥がして、中を開けてみた。
出てきたのは、キラキラの星がゆらゆらとぶら下がるファンシーでかわいらしいシャープペンシル。
「……か、かわいい」
「フライングしてごめん。でもさ、せとかが昨日あんなこと言うから、焦っちゃって……」
手元のシャープペンシルから視線を真山くんに上げると、困ったように眉を顰めつつも、ほんのり染まるピンク色の頬。
「そんな、彼女がいるやつなんてやめて、俺にしてよ。俺、ずっとせとかのこと好きだったんだよ」
外は雨音がうるさいのに、目の前の真山くんの言葉があまりにも穏やかで優しくて、あたしの心の中はきゅんの嵐が吹き荒れる。
だけど、嬉しいのに、一つだけ、あたしには引っかかることがある。
「……だって……紗和先輩は?」
「は? え? まさか、噂信じてたの?」
「昨日も、二人で楽しそうに歩いてたし……」
「……え、えぇ!! もしかして、見てたの?」
驚いて後ろに引いてしまう真山くんに、あたしはうなずく。真山くんは姿勢を戻して盛大なため息を吐きだした。そして、耳まで真っ赤な顔をして、あたしを見てくる。
「それ選ぶの手伝ってもらったの! で、紗和先輩は俺の高校生の兄ちゃんの彼女だから。俺にはねぇちゃんみたいな存在! それだけ!」
口を尖らせる真山くんは「勘違いしてんじゃねぇ」と言った後に、「あれは勝手な噂。でも、誤解させたなら謝る。ごめん」そう言って頭を下げてくる。
「……あ、それは、あたしも勝手に、誤解しただけだから」
真山くんは悪くないのに、そうやって謝ってくれるのが優しくて、また胸の奥がきゅんとなる。
「……もしかしてさ、勘違いだったらめっちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、その彼女いる奴って話、俺のことだったり、する?」
あたしの顔を覗き込むように、真剣に聞いてくる真山くんの瞳に、あたしは一気に全身の熱が顔まで昇ってくるのを感じて、震える声で勇気を出した。
「そう、だよっ! あたしも真山くんのことずっと好きだった。だから、今日は……全然目も合わないし、悲しかった」
「俺じゃないやつが好きなんだと思ったら、なんか、せとかのこと見るの辛くなって……だから、今日は避けちゃって……ごめん。でも、せとかも前の日、俺のこと避けてたろ?」
それは、紗和先輩といるところを見てしまったから。あたしも勘違いしていて。
「お互い様だな」
気まずくなっていると、真山くんがフハッと笑った。
「ずっと気持ち伝えたくて、でも勇気出なくてさ。誰かに取られる前に伝えなきゃって思わせてくれたのは、せとかだし。良かったら、これからも一緒にいてくれる?」
あたしの大好きで世界一かっこいい笑顔でそう言われちゃったら、答えなんてもう決まってる。
「お願いします!」
直角に頭を下げたあたしの頭をポンポンと撫でてくるから、そっと見上げた。
「よろしくね」
手を差し伸べられて、そっと繋ぐと、あたしと真山くんのドキドキが伝わってくる気がした。
にっこり笑った真山くんの笑顔が、雨雲の隙間からのぞいた太陽みたいに煌めいて見えた。
「あー! ようやく結ばれたねー! お幸せにー!」
いきなり声が聞こえてきたかと思えば、里麻が笹木くんと一緒に満面の笑みで手を振って帰っていく。
繋いでいた手を慌てて離して、うつむいた。
「もしかして、俺らだけ? お互いの気持ちに気づいてなかったのって」
「……えぇ!?」
すっかり青空になった空には虹がかかっている。
一緒に歩き始めるあたしと真山くんの距離が、これからもっともっと近づきますように。
明日もいっぱいキュンしよう。
「ま、真山くんっ?!」
驚くあたしに、真山くんは少しだけ困ったように、だけどいつもの笑顔で笑ってくれる。
ようやく、今日はじめて、あたしの胸がキュンと弾んだ。
「降水確率、午後から100%って言ってたよ? 天気予報見なかった?」
「あ……うん。見なかった」
朝も真山くんのことが気になってご飯も喉を通らなかったし、テレビも見ていなかった。
「そっか、じゃあ、俺はラッキーだね」
「……え?」
真山くんが差し出してくれている傘は、二人で入るには少しだけ小さい。
あたしは雨に当たることなくしっかり傘に守られているけれど、真山くんの肩が濡れてしまっているのに気がついた。
「真山くん、濡れてる」
「あー、えっと……」
考えるように悩みながら、真山くんが学校の自転車置き場を指差した。
「雨宿りしながら雨が弱まるまで話さない?」
「……うん」
あたしは真山くんと横に並んで、打ち付ける雨を避けて自転車置き場の屋根の下で雨宿りをする。
「ほ、ほんとはさ、ちゃんと誕生日に、渡したかったん、だけど……」
急にそう言いながら、制服のポケットに手を突っ込んだ真山くん。
出てきたものは、長方形の細いカラフルな包装紙にピンクのリボンがついている。
「はい。開けてみて」
「え?! あ、あたしに?」
突然のプレゼントに、戸惑うあたしに構わずそれをあたしに近づける。
目の前に突きつけられて、驚いてしまったけれど、そっと真山くんの手から受け取った。封がしてあるハッピーバースデーのシールを丁寧に剥がして、中を開けてみた。
出てきたのは、キラキラの星がゆらゆらとぶら下がるファンシーでかわいらしいシャープペンシル。
「……か、かわいい」
「フライングしてごめん。でもさ、せとかが昨日あんなこと言うから、焦っちゃって……」
手元のシャープペンシルから視線を真山くんに上げると、困ったように眉を顰めつつも、ほんのり染まるピンク色の頬。
「そんな、彼女がいるやつなんてやめて、俺にしてよ。俺、ずっとせとかのこと好きだったんだよ」
外は雨音がうるさいのに、目の前の真山くんの言葉があまりにも穏やかで優しくて、あたしの心の中はきゅんの嵐が吹き荒れる。
だけど、嬉しいのに、一つだけ、あたしには引っかかることがある。
「……だって……紗和先輩は?」
「は? え? まさか、噂信じてたの?」
「昨日も、二人で楽しそうに歩いてたし……」
「……え、えぇ!! もしかして、見てたの?」
驚いて後ろに引いてしまう真山くんに、あたしはうなずく。真山くんは姿勢を戻して盛大なため息を吐きだした。そして、耳まで真っ赤な顔をして、あたしを見てくる。
「それ選ぶの手伝ってもらったの! で、紗和先輩は俺の高校生の兄ちゃんの彼女だから。俺にはねぇちゃんみたいな存在! それだけ!」
口を尖らせる真山くんは「勘違いしてんじゃねぇ」と言った後に、「あれは勝手な噂。でも、誤解させたなら謝る。ごめん」そう言って頭を下げてくる。
「……あ、それは、あたしも勝手に、誤解しただけだから」
真山くんは悪くないのに、そうやって謝ってくれるのが優しくて、また胸の奥がきゅんとなる。
「……もしかしてさ、勘違いだったらめっちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、その彼女いる奴って話、俺のことだったり、する?」
あたしの顔を覗き込むように、真剣に聞いてくる真山くんの瞳に、あたしは一気に全身の熱が顔まで昇ってくるのを感じて、震える声で勇気を出した。
「そう、だよっ! あたしも真山くんのことずっと好きだった。だから、今日は……全然目も合わないし、悲しかった」
「俺じゃないやつが好きなんだと思ったら、なんか、せとかのこと見るの辛くなって……だから、今日は避けちゃって……ごめん。でも、せとかも前の日、俺のこと避けてたろ?」
それは、紗和先輩といるところを見てしまったから。あたしも勘違いしていて。
「お互い様だな」
気まずくなっていると、真山くんがフハッと笑った。
「ずっと気持ち伝えたくて、でも勇気出なくてさ。誰かに取られる前に伝えなきゃって思わせてくれたのは、せとかだし。良かったら、これからも一緒にいてくれる?」
あたしの大好きで世界一かっこいい笑顔でそう言われちゃったら、答えなんてもう決まってる。
「お願いします!」
直角に頭を下げたあたしの頭をポンポンと撫でてくるから、そっと見上げた。
「よろしくね」
手を差し伸べられて、そっと繋ぐと、あたしと真山くんのドキドキが伝わってくる気がした。
にっこり笑った真山くんの笑顔が、雨雲の隙間からのぞいた太陽みたいに煌めいて見えた。
「あー! ようやく結ばれたねー! お幸せにー!」
いきなり声が聞こえてきたかと思えば、里麻が笹木くんと一緒に満面の笑みで手を振って帰っていく。
繋いでいた手を慌てて離して、うつむいた。
「もしかして、俺らだけ? お互いの気持ちに気づいてなかったのって」
「……えぇ!?」
すっかり青空になった空には虹がかかっている。
一緒に歩き始めるあたしと真山くんの距離が、これからもっともっと近づきますように。
明日もいっぱいキュンしよう。