夫に私を殺させる方法
※※※※


 洞窟に入って約2時間。

 私は素晴らしい鍾乳石を間近で堪能することができた。なるほど妻はこれが見たかったのか。

 たしかに鍾乳石は美しい。しかも観光地のものとは違い、泥だらけになりながら進んだ限られた者だけが目にできる自然の奇跡。
 妻が惹かれる気持ちも分からなくはなかった。 


 しかし事態は想定よりも深刻である。


――行きたい。
 切実にトイレに行きたい。


 インストラクターは、少し道の開けた要所要所でメンバーを集めては、「ほら、あそこを見て下さい」等と話をしている。


――なんとのん気な!
 私は思わずイライラと、拳を握りしめた。


 このように狭い洞窟に大人数を連れてきておきながら、メンバーの中に尿意と戦っている人物がいるかもしれないということを、この者は全く想像できないのであろうか。

 鍾乳石も素晴らしいが、もう十分に見た。今、解説しているその「つらら」など、1時間ほど前に説明していたものと瓜二つではないか。
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