夫に私を殺させる方法
――この距離なら、いける。

 学生の頃から反復横飛びには自信があるのです。


 そう、自信はあったのですが。

 いざ、夫が私にゴチンとぶつかってきたとき――、あろうことか、私は数歩分しか横っ飛びができませんでした。崖のギリギリのところで、無意識に踏みとどまってしまったのです。

 しかも、足が震えて動けません。


――ああ、ばか! 私の意気地なし!


 私は、自分を罵りました。
 私が殺されなければ、夫と娘が殺されるというのに。
 それだけは避けなければならないのに。


 けれども、まだ望みはありました。
 夫が、驚きと苦悶の表情でこちらに近づいてきましたから。


――ああ、この人も、ついに覚悟を決めたのね。


 夫の手が私に伸びてきた、その瞬間――。
 ガラガラと、私の足元が崩れていきました。

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