夫に私を殺させる方法
 後日、男は、お礼をしたいということで我が家を訪れました。

 もういいと言っているのに何回も食事に誘われ、一月後にプロポーズをされたときは、もうどこからツッコミを入れたら良いか分からないほど、おかしいと思っていました。


 それというのも、彼とは、事務的な事項以外の会話をほとんどしていません。

 私自身も口下手なので、内心では男のおかしすぎる言動にツッコミの嵐でしたが、口に出るのは「はい」「そうですね」「分かりました」など、我ながら何がなんだか分からないような返事ばかり。


 食事をしていてもほぼ無言で、ひたすら気まずい沈黙に内心胃が痛くなるような思いをしているというのに、彼は平然と食事を続けていました。

 そして食事が終わるやいなや、また数日後の食事の誘いをしてくるのです。楽しくもないというのに!

 しかし私の表情筋も硬い自覚はあるので、切実に勘弁して下さいというその思いは、うまく伝わっていなかったのかもしれません。


――あれですか。外国人みたいだし、民族的な風習とか宗教かなんかで、一度恩を受けた相手には百倍返しにしなければならない決まりがあるとか?


 そう思っていた時代もありました。
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