青い海に揺らぐ

「何やってんだよ」

不意にかけられた声に、先輩の動きが止まる。


手の力が緩んだその隙に振り解いて、必死でその場から逃げ出した。


声のした方には一人の男の子が立っていて、その顔がぼんやりと滲んで見えないことによって、初めて涙が出ていたことに気づく。


誰かわからないけれど、確かに助けてくれたその子の元へ駆け寄れば、すっと先輩との間に入るかのように私を後ろに庇ってくれた。



「はぁー、何って見てわかんだろ」
「嫌がってる相手に無理矢理しようとしたことを?」
「ちげぇよ、そういうフリなんだよ」

フリじゃない!

震えて言葉は出ないくせに、拭った涙が悔しさでまた溢れそうになってくるのを必死で堪える。


「だったら教えてあげますけど、本気で嫌がってますよ」

「うっぜぇなぁ、邪魔すんなよ。つーかお前誰だよ」


先輩が近づいてくるのがわかって、震える身体を止めることができない。


「大丈夫」

そんな私に気づいたのか、こちらを振り向いた彼の声は優しく、はっきりと見えたその瞳には少しだけ苦しそうな色が浮かんでいた。


苦しそうなんて、なんでそう思ったのかはわからないけれど。

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