青い海に揺らぐ
「歩ける?」
「うん……」
震えて動かない足でどうにか歩こうとすれば、無理には急かそうとせず、腕を持って支えるように一緒に歩いてくれる。
同じように掴まれた腕が、さっきとは全く違うことに、少しずつ震えが治まっていく。
「ははっ、正義のヒーロー気取り? かっこいいねぇ」
にやにやと笑う声が後ろから聞こえる。
その不快な声にさっきのことを思い出しかけて、気づけばぎゅっと袖を掴んでいた。
「無視してんじゃねぇよ」
先輩の手が伸びてきたと同時に、私から離れていく身体。
あっと思った時には、どすんっと尻餅をついた先輩がぽかんとした顔でこちらを見上げていて。
「まだやります?」
落ちてきた前髪をぐいっと持ち上げてそう言った青野くんに、ひっと情けない声をあげて転がるように屋上から逃げていった。
「とりあえず、中入ろう」
ずるっと啜った鼻水は、涙のせいと寒いせいもあるかもしれない。
こくりと頷いて屋上のドアを開けた先の階段に2人座り込む。
そこも決して暖かいとは言えないけれど、ドアひとつ挟んだだけで、さっきよりもぐっと寒さが落ち着いた。