青い海に揺らぐ
「綾瀬さんが謝ることじゃないよ」
顔を上げた青野くんの目は、もう眼鏡と前髪で見えにくくなってしまった。
「いつもあんな感じなの?」
「……ここまでのことは、初めて」
なんであんなことになったんだろう。
隙間風にぶるりと身体を震わせれば、ごめんと隣から声がかかる。
「思い出さなくていいって言っても無理だろうけど、無理に話さなくていいから」
あ、怖くて震えたと思われたんだ。
確かに震えるほど怖かったけど、青野くんが助けに来てくれたから何も起きなかったのに。
「ううん、大丈夫。でも本当にいつもは違うの」
きっと偶々。
きっとこれからは大丈夫。
根拠のない自信で心を埋めないといけないくらいには、さっきのことは強く根付いてしまったみたいだった。