君の笑顔をください 〜アンドロイドの君へ〜
 彼女が最近、こっそりどこかと連絡を取っているらしいのを俺は見てしまった。小さな通信機を手に、通話をしているような話し方。
 しかし何をしているのかいくら尋ねても答えてはくれない。

「誰かと話していたのか?」

 俺は通信を終えたらしい彼女にそう声を掛ける。
 しかし彼女は、

「なんでもありません」

そう無表情で答えるばかり。

 俺は思わず口ごもってしまい、それ以上は何も言えずにいた。

 それからもそんなことが何度も。

 それ以外はいつも通りに見える彼女だが、俺は次第に焦り始める。

 買い物や支払いはネットで済ませることができるけれど、散歩や近所付き合いばかりはやはり外に出るしか無い。
 彼女は家にいるばかりではないからだ。

 俺が仕事のあいだに外で誰か、良い相手を見つけてしまったのかもしれない。
 逆に魅力的な彼女のこと、誰かに見初められたのかも……

 彼女は人間ではないけれど、人間と“同等”ほどの感情はあるはずなのだ。

 確かに俺は、彼女からすれば自分を買った『主人』ということになる。
 しかし好きだと言ってもらったことがない彼女とは実際のところ、契約書などが無ければ気持ちの繋がりもないのだから。
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