処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
「夕食の準備が整いつつありますので、食堂へどうぞ」

 部屋に入ってきたコックに促され、私は食堂に入室した。食卓テーブルの上には、既に大きな鍋敷きが置かれている。私が座った隣にはリークもいた。

「鍋ですって」
「どんな感じなんだろうな」
「気になるわよね…」

 程なくしてマッシュとメイル、ナジャも到着して各々椅子に座る。

「楽しみ~」

 既にナジャはテンション高めのようだ。腕を上げ下げしながらうきうきとはしゃいでいる姿は可愛らしい。

「皆さん揃いましたか?」

 料理長がやってきた。

「全員揃ってるわよ~」
「お嬢様了解いたしました。ではお鍋をご用意いたします」

 コックによって持ち運ばれたのは、黒いぐつぐつと煮えた丸い大鍋だ。コックは分厚い布で鍋の持ち手を持ち、身長に食卓テーブルの真ん中に置かれた、鍋時期へと置く。

「すごい、ぐつぐつ言ってる」

 ナジャの言う通り、ぐつぐつと煮える音がダイレクトに聞こえてくる。席から立って鍋の中をのぞき込むと、お肉と野菜が良い感じで煮えていた。

「なんか、薬作っている時の鍋みたい」

 と、魔女のメイルがくすっと笑いながら呟く。確かにこの鍋も、鍋でぐつぐつ何かを煮込むというシチュエーションもどこか、おとぎ話に出て来そうな、そんな雰囲気を感じさせてくれる。

(よく悪党がこういう沸騰したお湯の入った鍋に落ちて、こらしめられるみたいな話は聞いた事があるな)

 するとコックが白い小皿を用意し、鍋に入った鹿肉と野菜を取り分けてくれた。

「皆さん熱いので気を付けてください。鍋から食材を取り分ける際は、私達へ申しつけください」

 料理長の気遣いは助かる。これだけ煮えていたら、熱さで少し危なさそうだ。

(冷ましてから食べよう…)

 しばらく待ってから、木のスプーンで煮込まれたニンジンを一欠片すくって、口の中に入れた。

「!」

 だしは…コンソメがメインだろうか。それに野菜の味わいがしっかりと染み込みとても美味しい。

「あの、料理長さん」
「なんでしょう?」
「これ、魚も入ってます?鮭ですか?」

 と、料理長に尋ねてみると当たりだったようだ。

「そうです鮭も入れてみました。ご名答です」

 確かに鮭の濃い味もしっかりスープの中に出ている。
 次にいよいよ鹿肉を食べてみる。鹿肉は食べやすいように、一口サイズにカッティングしてくれている。

「わふっ…」

 お肉のうまみが口いっぱいに広がって、とても美味しい!臭みも無く、柔らかく仕上がっている。

「美味しいです…!」

 私だけでなく、リークにメイル、マッシュ、ナジャからも称賛の声が上がっている。

「ふふっ大成功って事ね!」

 自慢げに笑いながら、成功を祝うナジャ。私はそんな彼女を見てふふっと笑う。

「ナターシャ?」
「ナジャ可愛いなって思って」
「そ、そう?…えへへへ…」

 控えめに笑うナジャ。その後も美味しく鹿肉や野菜、鮭を平らげ、あっという間に鍋の中身はだしを残して空っぽになったのだった。
 ちなみにその後。残っただしでリゾットを作ったが、これまた美味しかったのである。
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