処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜
 リークの話をまとめてみよう。

 彼は、少年時代に陸軍に召集された。最初は幼かった事と家事スキルや民間療法に詳しかった事もあり、後方支援の役割がメインだった。
 しかし、戦況は次第に苦しくなりとうとう前線にも駆り出される事になった。その戦場は悲惨を通り越すほどの悲惨でリークの精神はあっという間にむしばまれていった。

「仲間が次々に死んでいって、自分も相手を殺すのが耐えられなくなった…」

 そう語るリークの表情からは、悲惨・辛苦といった負の感情全てがダイレクトに伝わって来る。

 気が付けば隊は崩壊。その隙をついてリークは隊を抜け出した。抜け出したのは夜。ゲリラ夜戦が行われる中での脱走だった。
 走って走って走り続けたリークは、故郷へとたどり着いた。両親に再会し、しばらくしてからこの地に家を建てて静かに暮らしているのだという。
 そんなこの家には魔術がかかっている。それは軍の者からはリークの家がわからないようにしているというものだ。迷彩魔法というらしい。

「あの木の幹にあった紋様がそう?」
「ああ」
「成程ね…」

 やはり魔術のものだったか。それなら納得である。

「だから今度また召集が来るかと考えてしまうと、怖いんだ」

 珍しくリークの声は弱弱しさを見せていた。私の胸がずきんと痛む。
 いたたまれなくなってきたので、私はリークの頭をそっとなでた。

「大丈夫、ここで静かに暮らしたらいいのよ」
「…」
「魔法をかけたらいいわ、誰にも家が見えない魔法を。そしてここにずっといるの」
「買い出しは?」
「…あ、そうか…」

 それなら水鏡をこっちに持って来るとか?でもあの水鏡移動させるのは出来るんだろうか…

「ナターシャ、ありがとう」
「え、私何にもしてないのに」
「話したらちょっと落ち着いた。良かった」

 そう語るリークの顔はいつも通りの顔に戻っていた。声音も弱弱しさが消えている。ほっと一息ついた私は、良かったと口にする。

「じゃあ、ごはんの準備しましょうか」
「そうだな」
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