時を刻まなくなった時計


 その夜は、望月であるのにもかかわらず、雲がその月光を霞ませていた。

 貴方が、この地を出て戦場へ向かうというのに、何故このような空なのだろうか。

 そんなことを私が呟くと、

「そう言ってくれるのかい? 嬉しいね。じゃあ、僕がこの地に再び戻ったとき、共に霞むことを知らない月を見よう。その時は、貴女に『月が綺麗ですね』と言えるといいな」

 そんなことを、言ったのだ。

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