一夜限りだったはずの相手から、甘美な溺愛が止まらない。


 その言葉を聞いた瞬間、全てを悟った。

 彼は──……私のことを覚えている。

 その瞳に私だけを捉えて離さない。

 一刻も早くこの状況を打破しなければならないと分かっているのに、鳳間さんから目を離すことができない。

 「……っ」

 「谷澤加奈さん、と言いましたね」

 「ど、どうして名前を……!」

 「先ほど名刺をいただきましたから」

 「(……名刺、見てるんだ)」

 部長や会社の上層部ならともかく、私のような平社員には興味など持たない人だと思っていた。

 鳳間家の人々は社交界でも有名な一族だそうで、表舞台にあがってくるのは最低限の義務を果たすときのみだと聞いたことがある。

 だからと言って決してその地位を鼻にかけたりお高くとまっているわけでもなく、品位を保ちながらもその場に相応しい振る舞いをみせているのだと、どうしてか、部長が自分のことのように鼻高々に話しているのを聞いたことがあった。

 ただ、徹底して鳳間家の人間はプライベートを見せないらしい。

 だから彼がどんな人で、何を好み、どんな趣味を持っているのか、まるで分からないのだとか。

 「今はとにかくお部屋に戻りましょう。あなたの上司が僕にプレゼンをしたくてたまらない様子でしたので」

 「そ、そうですね」

 「──僕たち個人の話は、この件が終わったあと、いかがですか?」

 「……個人の、話?」

 「えぇ。一週間前の、あの話……と言えばご理解いただけますか?」

 「……っ!!」


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