君と青空を泳ぐ
「ねえ、しょうくーんこれまじでわかんない」
昨日勉強しようとして途中で止まっていた俳句の教科書のページを開いて翔くんに向ける。
その横では、窓から暑すぎる夏の日差しがじりじりと私たちを照らす。そのせいで脇から汗が垂れてきて、不快な気持ちになる。
さすがにこの暑さには、朝ふりかけた制汗剤も耐えられなかったらしい。
臭いは大丈夫だろうかと少し心配になりながらも、近づいてくる翔くんの傍に寄り添う。
「これはね、正岡子規が病気で寝込んでいて、そとが見られないから雪の様子を家族に聞いていた所を詠んだ詩なんだって」
翔くんは得意げに私に語る。翔くんは勉強ができるからいつもこうして、テスト前になると私は翔くんを頼る。
「へえええ!流石翔くん!これで国語は満点だー!」
白々しい笑みと大袈裟な声でそう叫ぶ。
「んなわけ!でも、頑張って!雪葉ならいける!」
翔くんはにこにこと優しく笑って、自分の席へとつく。
私は不器用だから、いつも一直線に進み続ける。
だから、いつも気がつけない。私にだけ向けられた、その後ろ姿に。
――ピッピピ。ホトトギスが、鳴く。
「あああーもうーテスト難しいって。全然解けなかった」
私はそう翔くんにぼやきながら、帰路につく。
「そっかそっか。結構難易度高かったもんな。ま、俺は解けたけど」
ドヤ顔で連ねてくるので思わず声を張り上げて。
「はあ!?意味わかんない!」
「うりゃ!」
気合いとともに肩をぶつける。
翔くんも私も笑っている。
まるで分厚い雲から漏れ出る太陽の輝きが、二人だけを照らすよう。
「明日の一ヶ月記念日デート楽しみだね!」
途切れそうな会話に、無理やり言葉を繋ぎ込む。翔くんは口数が多い方では無いので、会話が途切れることがなんだか寂しくて、いつも私ばかり喋りかけてしまう。
「うん。雪葉が頑張ったから、たくさん楽しませるよ」
その言葉と私だけが見れる微笑んだ翔くんの顔に、たまらなく幸せを感じる。
「やったあ!嬉しい」
そう言って、私は勢いに任せて翔くんに飛びつく。
翔くんは恥ずかしいような、照れたような顔をしながらも、私の耳でなければ聴き逃してしまうくらいの声で大好きと言ってくれた。
(やっぱり翔くんは優しい。お母さんとは、大違い)