君と青空を泳ぐ
「きれい…」
ゴンドラ越しに見えるその夜景は、有無を言わせぬ美しさで、ただただ心を締め付ける。
それでもこっそり翔くんの方が綺麗、なんてことを思いながらみつめていると、翔くんが勢いよく口を開くのがわかった。
少し間があって、何かと思って待っていると、
「また次の記念日にも来ような!」
そう告げられる。
その言葉の嬉しさに、早く動く心臓を締め付けて、即答する。
「うん!絶対来る!」
(こういうところが、大好き)
それからは何故だかお互いに落ち着かない気持ちになってしまって、二人を包み込んだのは、夜の静寂さと街の灯りだけだった。
それから殆ど喋ることはなく、ゆっくりゆっくり進んでいたはずのゴンドラは、いつの間にかジェットコースターと変わらないほどの早さで終わりを迎えてしまった。
手を繋ぎながら観覧車を降りて、今度は恋人繋ぎに直して、駅へと向かう。
「そろそろ帰るか」
沈黙を遮った音は、聞きたいようで、聞きたくないような言葉だった。
「そうだね。今日はちょー楽しかった。ありがとう!」
襲いかかる寂しさを必死に抑えながら、私は笑顔を月に光らせる。
「俺も、めちゃくちゃ楽しかった」
暖かくて、冷たい、二人だけを包む風。
「じゃあ、またね」
私がそう告げると、翔くんは少し逡巡する様子を見せて、やっぱりといった様子で言葉を零す。
「雪葉。一緒に帰ろ」
驚いた。嬉しかった。
「行きは別々で来たのに。帰りは一緒なんて。やっぱり翔くんはちょっとずるい」
(でも、そんなところが好き)
「怒んないでよー」
翔くんが微笑みながら、私に語り掛ける。
「ほら、行こうぜ」
そう言って差し伸べられた手は、夏の暑ささえ止めてしまうほどに暖かく、強く握られた。
(好き好き好き。大好き)
日に日にます想いの炎は、もはや消すことなどできないほどに燃え上がる。自分さえも焦がすことを知らずに。