迷宮階段
 お母さんになにかを言われても面倒で適当な返事しかしなかった。やがてそれが怒りに火をつけて、怒られていたんだっけ。
「それか、お父さんに頼んでお手伝いさんを雇おうよ。それくらいのお金あるんでしょう?」

「あるわよ」
 お母さんはそれでもこちらを見ない。太ってきた腹部をボリボリとかいている。

 そういえば洗濯もろくにされていないようで、お母さんは何日も同じ服を着ている。不意に自分の匂いが気になった。
 制服はちゃんと洗濯しているけれど、こんな家にいたら匂いがついているんじゃないかと不安になったのだ。

 でも、まだ大丈夫。服からは洗剤の爽やかな匂いがしている。
 ホッと胸をなでおろし、なにもせずにだらけているお母さんをひとにらみして、自分の部屋へと戻ったのだった。
< 113 / 164 >

この作品をシェア

pagetop