迷宮階段
 女性と男性だ。どちらも三十代から四十代くらいで、逃げても簡単に捕まってしまいそうだ。
 背中に冷や汗が流れていくのを感じる。

 どうしよう。このままじゃ捕まっちゃう。焦ってうまく頭が回らなくなったとき、涼子が一歩前に出た。
「ご、ごめんなさい!」

 補導員たち三人へ向けて勢いよく頭を下げる。
 そして顔を上げたかと思うと「今日は榊原さんのお父さんに色々話を聞いて、その帰りなんです」と、言ったのだ。突然自分の名前を出されてギョッと目を丸くする。

 補導員たちは一瞬怪訝そうな表情を浮かべたものの、すぐに榊原という名字に心当たりがあったのか「もしかして、あの会社の榊原さん?」と、涼子へ向けて訪ねた。

「そうです。彼女が、榊原社長の娘さんなんです」
 涼子に言われて私は小さくお辞儀をする。その途端、補導員三人の表情が和らいだ。

「なんだ、そうだったんですね。でももう暗いからほどほどにしてくださいね」
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