迷宮階段
 最近では誰も私を叱らない。注意だってしない。好き勝手に遊ぶのは当然のことだった。
 それなのに、どうして先生が目くじらを立てて怒っているのか、私にはわからなかった。どんな大人でも、父親の名前を出せば快く遊ばせてくれている。

「一体どこでなにをして遊んでいるの? そんなことをしていたら、いつかきっと痛い目を見るわよ」
 きつい口調の先生に思わず笑ってしまいそうになる。私がどんな痛い目を見ると思っているんだろう。

「先生、私のお父さんを知ってますよね?」
「もちろん。お父様は立派な方ね」

 私は更に首をかしげた。
 父親のことを知っているのなら、私がどんな困難だって簡単に乗り越えられることがわかるはずだ。誰もが私の言うことを聞くようになるんだから。

「だけどそれは、あなた自身が立派という意味じゃないのよ」
「はぁ?」

「家族や友達をもっと大切に。そして自分自身をもっともっと大切にしていないと、バチが当たるのよ」
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