迷宮階段
 もうすっかり帰り支度を終えたところで配られたプリントだったから、無意識に机の中に突っ込んで、そのままカバンには入れずに来てしまったかもしれない。

 慌ててカバンの中を探してみるけれど、やっぱりどこにも見当たらない。
「取りに戻る?」

「うん。里子は先に帰ってていいからね」
 バス停は校門の目の前だけれど、一応そう声をかけて慌てて校舎へとかけ戻る。宿題として出されていたプリントだから、どうしても持って帰らないといけない。

 A組の担任である矢沢先生は遅刻や宿題に関してとても口うるさく、忘れてしまうと説教されることは間違いないのだ。
「あったぁ」

 もう誰もいない教室に飛び込んで机の中からプリントを引っ張り出し、ホッと胸をなでおろす。
 大切にカバンに入れて教室を出ようとした時、黒板の上の壁に駆けられている時計が視界に入った。今は四時四十分だ。

 校舎内からは部活動以外の音はなにも聞こえてこない。
< 13 / 164 >

この作品をシェア

pagetop