迷宮階段
☆☆☆

 家に戻ってリビングを覗くと、テレビをつけたままお母さんがいびきをかいて眠っていた。一瞬顔をしかめて、そのままにしてそっと自室へと戻る。

 自分の部屋にはお手伝いさんを入れていないから、今はもう足の踏み場もないくらいに汚れている。
 お菓子のゴミや中身が入ったままのペットボトルをかき分けて、どうにかスマホの充電器を探り当てた。

 ベッドに横になる前に、ベッドの上に散乱しているマンガと雑誌を床に落とす。ドサドサと音がして異臭が舞い上がってきた。
 ようやくベッドに横になると布団が湿気を吸ってじっとりと重たい。

 肌に絡みついてくるのが不快で、掛け布団をはねのけた。
 目を閉じるとなぜか浮かんでくるのは元の両親の顔だった。

口うるさい母親と、安月給な父親。
いなくなってせいせいしたふたりの顔が何度も何度も目の裏をちらつく。

 その度に浮かんでくる気持ちは『寂しい』『会いたい』と名付けることができた。私は強く首を振ってその気持を心の中から追い出す。
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