迷宮階段
ふいに里子の声が脳裏に蘇ってきた。
『放課後の四時四十四分』

 後四分でその時間になる。私はなんとはなしにゴクリと唾を飲み込んでいた。
 先に帰っていていいと言ったけれど、里子はきっと待っている。バスの到着時間は確か四時五十分だったはずだから。

 早く戻って上げたほうがいいという思いと、そこまで気にする必要はないという気持ちが胸の中で交差する。
 時計の前で立ち止って動けずにいると、長針が動いてカチッと音を立てた。

 四時四一分。その音を合図にしたように私は駆け出した。
 ほんの少し試して見るだけ。七不思議なんてどうせありえないんだから、遊んでみるだけ。

 三階に駆け上がり、そのまま屋上へ続く階段を見上げる。下から、四段目。
 周りには誰もいなくてとても静かだ。
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