迷宮階段
 窓から入ってくる夕日もほとんどなくて、放課後なのにまるで真夜中の校舎に忍び込んだような気分になってくる。
 私はポケットからスマホを取り出して時間を確認した。

 四時四三分。あと一分だ。
 ゴクリと喉を鳴らす。走ってここまで来たせいか、額から頬へかけて汗が流れた。

 時間は止まらず、刻一刻と進んでいく。それなのにまるですべてが停止してしまっているかのように、永遠のように長い長い一分間だった。

 スマホ画面の中で時計が四時四十四分を告げる。私は口を開き、空気を吸い込んだ。
「友達の村田里子を桃屋麻衣に交換」

 教室で話すのと同じくらいの声の大きさだったけれど、その声はやけに大きく階段に響き渡った。そして訪れる静寂。
 ジッと待っているとジメジメとした空気が肌に絡みついてきてまた汗が流れ出した。

 もしかして今の声を誰かに聞かれたんじゃないか?そんな不安がよぎってハッと息を呑み、時計を確認するとすでに四時四十五分を回っていた。
私はすぐに身を翻して階段を駆け下りたのだった。
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