迷宮階段
 そんな考えをかき消すように左右に頭を振った。
 不安に感じる必要なんてない。だって私は麻衣の友達なんだから。それは、覆らない事実なんだから。

 気を取り直して帰ろうとカバンを手に取る。
 そのときだった「あの、榊原さん」と、声をかけられて振り向いた。

 そこに立っていたのは里子だ。里子はうつむき加減でこちらを見ている。
 一瞬、心臓がドクリと音を立てる。友達だった里子が今更私になんの用事だろう?

 もしかして、交換階段をしたことがバレたんだろうか?
「いいにくいんだけどさ……」

 里子はそう前置きをして私を見た。
「昨日、私見ちゃったの」

「昨日?」
 私は眉を寄せて聞き返す。

 昨日はなにもしていない。あの階段へは行っていない。
「牧内くんと桃屋さんが一緒に歩いてたよ!」
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